レジスタンストレーニング「漸進性過負荷の原則」

投稿者 : 河森直紀

Athletebody.jp レジスタンストレーニング「漸進性過負荷の原則」

今回はゲスト記事のご紹介です。
サイト内のリンクページでも紹介している河森直紀S&Cコーチが、AthleteBody.jpの読者さんに向けて書いてくれました。
河森コーチは、国内でスポーツ科学を学んだ後、海外の大学院に留学され博士号まで取得されました。自身のブログで科学的研究の論文レビューなどを掲載される一方で、日本のトップアスリートのS&Cトレーニング指導を行う、まさに筋力トレーニングの「博士」です。
今回のテーマは「トレーニングの原則」です。少し長いですが、要点をまとめると以下のとおり。

  • 少しずつ負荷を上げて、身体を適応させて行くことが不可欠。
  • どういう能力を伸ばしたいかで負荷の種類や上げ方を考える。
  • ずっと同じ負荷で続けるのは「運動」で、「トレーニング」とは呼ばない。

当たり前のように聞こえるかも知れませんが、しっかり実践できているかは別の話。トレーニングで結果を出したい人、身体を変えたい人は押さえて欲しいとっても大事な基礎の話です。

トレーニングの原則

レジスタンストレーニングを実施する目的は、筋肥大、筋力・筋パワー向上、傷害リスク低減、等々いろいろあるでしょう。
その目的が何であれ、レジスタンストレーニングを効果的かつ効率的に実施するために順守すべき「トレーニングの原則」というものがいくつか存在します。その中でも一番重要なのが「漸進性過負荷の原則」です。

エクササイズ・セット数・レップ数等のプログラム変数を設定する際に、この「漸進性過負荷の原則」にしたがって決断を下しておけば、誤った判断をする可能性は断然低くなります。逆に、「漸進性過負荷の原則」を無視して、見た目の派手さや最新の流行を追い求めてトレーニングを進めてしまうと、求めている効果を得られない可能性が高くなります。

今回は、この「漸進性過負荷の原則」について説明したいと思います。まず、「漸進性過負荷の原則」という言葉は、「漸進性の原則」と「過負荷の原則」の2つに分けて考えることができます。
後半部分の「過負荷の原則は、目的とする適応(例:筋肥大、筋力・筋パワー向上)を引き起こすためには、身体が日常的に受けている(慣れている)刺激を超える刺激(=過負荷)を身体に加える必要があることを説明しています。
例えば、日常的に週3回、スクワットを40kgの重量で3セットx5レップ実施している人がいるとします。この人にとっては、週3回、スクワットを40kgの重量で3セット×5レップ実施することは普段から受けている日常的な刺激なので、全く同じトレーニングを続けても過負荷が身体に加えられることはなく、さらなるトレーニング適応は望めないことになります。
そこで、この人に過負荷を与えるためには、プログラム変数(頻度・拳上重量・セット数・レップ数 etc.)のいずれかを操作してあげる必要があります。例えば、拳上重量を40kgから45kgに増やすとか。45kgという重量はこの人にとって新しい刺激(=過負荷)であり、そのような環境の変化に対応しようと身体が反応して、筋肥大や筋力・筋パワー向上等の生理学的適応が引き起こされるのです。

過負荷と適応のいろいろ

ここで注意が必要なのは、「過負荷を与えると言っても様々な方法があり、その方法により引き起こされる適応の種類が異なるという点です。レジスタンストレーニングにおいて、過負荷を与える方法をいくつか挙げてみると、

    • 挙上重量を増やす
    • 1セット当たりのレップ数を増やす
    • セット数を増やす
    • セット間の休息を短くする
    • エクササイズの難度を上げる
    • 可動域を広げる
    • トレーニングの頻度を増やす

等があります。ここで挙げたもの以外にも過負荷を与える方法はありますが、その全てをカバーするのはこの記事の目的ではないので省きます。
繰り返しになりますが、ここで言いたいのは、どのプログラム変数を操作してどのような種類の過負荷を身体に与えるかによって、引き起こされる生理学的適応の種類も変わってくるということです。
例えば、1セット当たりのレップ数を増やすというのは過負荷を与える方法の1つではありますが、トレーニングの目的が例えば最大筋力の向上だとすると、効率の良い方法ではありません。
ベンチプレスを40kg×5レップから始めて毎週1レップずつ増やしていき、3ヶ月後に40kg×17レップできるようになったとしても、最大筋力(ベンチプレス1RM)が大幅に向上するかどうかは疑わしいでしょう。この方法で主に鍛えられるのは筋持久力だからです。
もちろん、トレーニング初心者であれば、この方法でもある程度の最大筋力向上が期待できますが、最大筋力の向上がメインの目的であれば、挙上重量を増やすという過負荷のほうがはるかに効率的です。
要するに、「過負荷の原則」にしたがって過負荷を与えることは重要ですが、過負荷の種類についても注意を払う必要があるということです。これは、「特異性の原則」と呼ばれる別のトレーニングの原則に関する議論につながってくる話なのですが、それについてはまた別な機会にしたいと思います。

少しずつ負荷を上げ続ける「漸進性」

一方、「漸進性過負荷の原則」の前半部分の「漸進性の原則」に関して、「漸進」という普段あまり聞き慣れない言葉を辞書で調べてみると、「順を追って少しずつ進んでいくこと」とあります。トレーニングに当てはめて考えてみると、トレーニング負荷を少しずつ増やしていく必要があることを示しています。
例えば、「過負荷の原則」に従ってベンチプレスの挙上重量を40kgから45kgに増やしてトレーニングをすると、この過負荷に対して生理学適応が起こり、筋力がアップしますが、その後もずーっと45kgを使ってトレーニングを続けていては、さらなる(継続的な)筋力向上は望めません。
なぜなら、筋力向上に伴い、45kgを用いてトレーニングをする事がもはや日常的なことになってしまい、さらなる適応を引き起こすための刺激(=過負荷)にはならなくなるからです。したがって、継続的なトレーニング適応を望むのであれば、体力が向上するのに伴いトレーニング負荷も少しずつ高めていく(漸進させていく)必要があるのです。

「運動」と「トレーニング」

筋力トレーニング レッグエクステンション

たまに民間フィットネスジム等で毎回同じエクササイズを同じ重さで同じ回数だけ実施している人を見かけることがあります。
「あの人、1年前とまったく同じことをしているな〜。ある意味スゴイな〜。」なんて思いながら横目で眺めたりするのですが、この人のトレーニングには「漸進性」が欠けているわけです。
だから、そのようなトレーニングを続けていても、筋力等が大きく向上することは望めません。
ま〜、ジムに来て楽しく身体を動かして汗を流し、その後にビールを美味しく飲むことが目的であるのなら、それでも良いのでしょう。

この場合、この人がやっているのは「運動」であって「トレーニング」ではないのです。運動は身体を動かすこと自体が目的であり、楽しく身体を動かして一時的に気持ちよくなるのであれば、それはそれでまったく問題ありません。私もそれを否定するつもりは一切ありません。
一方、トレーニングは一時的な目的を達成するための運動とは異なり、中・長期的な目的(例:筋肥大、筋力・筋パワー向上)を達成するためのプロセスです。トレーニングにおいては、身体を動かすことはあくまでも手段であり、目的ではないのです。
運動をするのであれば、まったく同じエクササイズをまったく同じ重さでまったく同じ回数だけ実施し続けても構いませんが、筋肥大や筋力・筋パワー向上といった中・長期的な目的を達成するためには、「漸進性の原則」に従って計画的にトレーニングを行うことが必要なのです。

「漸進性の原則」に関して、ここまで説明した通り、いつまでも同じことを継続するのではなく、トレーニング負荷を増やしていく、という点は非常に重要で本質的な部分ですが、もう1つ忘れてはいけないのは、少しずつ増やすという点です。
外部から加えられた過負荷に対して適応しようとする身体の能力には限界があります。この限界を超えて過負荷を与えてしまうと、適応が引き起こされないだけでなく、一時的に体力の低下にも繋がりますし、この状態がしばらく続くとオーバートレーニング状態に陥る可能性もあります(実際には、そう簡単にオーバートレーニングにはならないと思いますが)。

そのようなマイナスの状態を避けるためにも、少しずつ負荷を増やしていくのが重要になります。この「少しずつ」が実際にどの程度なのかは、アスリートのトレーニング経験、遺伝的なポテンシャル、栄養、睡眠、休養、等の諸条件によって変わります。
例えば、トレーニング初級者の場合は、トレーニングをする毎にスクワットの拳上重量を2.5kgずつ増やしていくことも可能かもしれませんが(週に2~3回トレーニングするとして)、トレーニング中級者になってくるとそのような割合で負荷を上げていくのは現実的ではないので、例えば1週間毎に2.5KG増やすようにプログラムを変えてあげる必要があります。さらにトレーニング経験を積んでトレーニング上級者になると、拳上重量を2.5KG上げるのに数か月をかけるのが必要になったりします。
また、適切な栄養を摂取し、しっかりと睡眠時間を確保し、休養もちゃんと取っているアスリートと、それらを怠っているアスリートとでは、どの程度のスピードで負荷を漸進させていくのが適切であるか、は異なります。
さらに言うと、以上のようなアスリート自身に関する要因だけでなく、エクササイズの特性によっても適切な「少しずつ」の程度は変わります。例えば、多関節エクササイズでより多くの筋群・筋量を用いるようなエクササイズにおいては、単関節で小さな筋群を鍛えるエクササイズと比較して、適切な漸進の割合・スピードは速くなるでしょう。
これらの多様な要因を考慮に入れたうえで、漸進の度合いをうまく見極めて調節するのがストレングス&コンディショニング(S&C)コーチの腕の見せ所とも言えます。
アスリートの遺伝的なポテンシャルや、トレーニングセッション外でのアスリートの行動(栄養、睡眠、休養)等についてはS&Cコーチがコントロールできない部分なので、なかなか難しい作業ではありますが・・・。

迷ったら原則に当てはまるかどうか

以上の「過負荷の原則」と「漸進性の原則」を組み合わせたコンセプトが「漸進性過負荷の原則」ということになります。
私は、S&Cトレーニング指導をするうえでこの「漸進性過負荷の原則」を1つの軸と考えています。自分が作成しているトレーニングプログラムが適切なのだろうか、と不安になったりした場合は、必ず「漸進性過負荷の原則」に立ち返って、この原則に当てはまっているかどうかを確認する作業をおこないます。
また、新しいエクササイズやトレーニング器具を導入するかどうかを判断する時にも、「漸進性過負荷の原則」が適用可能かどうかを基準にしています。
最近は、見た目が派手でひと目をひくようなエクササイズやトレーニング器具が流行する傾向が見られますが、それらを用いてトレーニングをして、アスリートが適応するに従って負荷を少しずつ増やしていくことができるのかどうか。それが判断基準です。
この基準に当てはまらないエクササイズは、もはやトレーニングエクササイズではありません。単なるドリルという位置付けになります。S&Cプログラムのメインとなるトレーニングエクササイズを実施する上で役に立つのであれば、ウォームアップやエクササイズのセット間にこのドリルを導入しても良いでしょう。しかし、ドリルがS&Cプログラムのメインとはなりえません。あくまでも補助ドリルということで、モビリティドリルやウォームアップドリルと同じ位置づけです。

スクワット ファンクショナルトレーニング

同じことはトレーニング器具にも言えます。ファンクショナルな動きを鍛えることができると謳っているトレーニング器具は多いですが、「漸進性過負荷の原則」を適用できるものは少ないと感じます。
そして、「漸進性過負荷の原則」が当てはまらないトレーニング器具の汎用性は極めて低いと言わざるをえません。
「いやいや、ファンクショナルなドリルやトレーニング器具の目的は“動き”を鍛えることだから、そこそこの重さを加えることができれば、それ以上重さを増やすことができなくても大丈夫なんです」という反論が聞こえてきそうですが、私から言わせればそんなものはトレーニングではありません。

競技コーチがスキル練習の一環として、そのようなドリルや器具を活用するのであれば、何の文句もありません。しかし、競技の素人であるS&Cコーチが「動きを鍛える」として、そのようなドリルやトレーニング器具を使ったトレーニングに貴重な時間を割くのは理解できません。
バーベルやダンベルを用いてベーシックなトレーニングエクササイズを実施すれば、「漸進性過負荷の原則」が適用できるので筋力や筋パワーを向上させることができるし、ベーシックな“動き”を鍛えることもできます。そっちのほうがよっぽど効率的です。

以上、「漸進性過負荷の原則」について説明しました。トレーニング論や運動生理学を少しでも学んだ人にとっては、聞き覚えのある用語だと思いますが、「そういえば教科書に載っていたな〜」程度の存在ではないでしょうか?
あるいは、あくまでも概念上のお話で、実際のS&Cトレーニングに活用するようなコンセプトではないと捉えている人も多いのではないでしょうか?私も最初はそのような考えでしたが、実際にアスリートを指導するようになり、このコンセプトは現場でもかなり使えると思い直しました。
トレーニング方法(エクササイズとかプログラム変数の操作の仕方)は、色々と勉強をして新しい知識を得たり、経験を積んだりするにつれて変わっていくものです。しかし、トレーニングの原則はいつまでたっても不変の存在です。その中でも特に今回紹介した「漸進性過負荷の原則」は最も大切なコンセプトであり、私にとっての軸となるものです。
読者のみなさんにも、S&Cトレーニングをするにあたって絶対にブレない軸を持っていただいて、流行りのインチキトレーニング等に騙されずに、適切なトレーニングを地道に継続していただきたいと思います。

河森コーチはブログTwitterで情報発信されています。
ブログに掲載されている内容をしっかり理解するには、ある程度の予備知識が必要ですが、真剣にトレーニングに取り組みたい人は必見です。とても論理的にかつ真摯にトレーニングに向き合っているスタンスが印象的です。
今回は「一般ピープルが読んでそのまま理解できる記事」ということで、専門用語をできるだけ省いて書いてもらいました。
こういうコーチの指導を受けてトレーニングをすると、たまたまジムに居た力持ちのアドバイスを聞くのとは、まったく違う物を学べるんだと思います。

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河森直紀

ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチ。
早稲田大学でスポーツ科学を学んだ後、アメリカ、オーストラリアの大学院へ留学して修士号、博士号を取得。帰国後は国立スポーツ科学センターで日本のオリンピックアスリートの体力強化に関わる。2017年から独立しフリーランスのS&Cコーチとして活動中。
「S&C関連情報(英語での情報や科学論文)の収集と分析」と「科学の現場への応用」を得意とし、研究と現場の両方を知るS&Cコーチとしてアスリートをサポートする。

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