減量をするときには食事制限をするだけではなく、筋力トレーニングをして筋肉を維持することが大切だとよく言われます。また、筋肉が落ちると、太りやすい体質になってしまうと言われることもあります。
これは「筋肉はカロリーをたくさん消費しているので、筋肉が落ちると代謝が落ち、ヤセにくく太りやすい身体になってしまう」という理屈です。皆さんもこういった話を一度は耳にしたことがあると思います。
実際、AthleteBodyの減量指導では、必ずトレーニングと食事管理をセットにしたプログラムを実践していただいています。しかし、この記事を読んでくれる人の中には、トレーニングはキツくて本当は避けたいけれども「必要なものだから」と仕方なく取り組んでいる人もいるのではないでしょうか。
これまで運動習慣がなかった人が、食事制限をしながら筋力トレーニングを行うのは大変なことも多いです。
減量をするとき、トレーニングをしなければ本当に筋肉が落ちてしまうのでしょうか?
筋肉が落ちるとヤセにくく太りやすい体質になってしまうのか?
今回は、減量するときの筋肉と代謝について考えてみたいと思います。
トレーニングをせずに減量すると筋肉は落ちるか
そもそもトレーニングをせずに食事制限だけを行うと、筋肉は本当に落ちてしまうのかを考えます。
減量をしたときに筋肉量がどう変化するかは、多くの研究で調べられています。
例えば、この研究では肥満の人が体重を落としたときの体脂肪と筋肉量の変化を調べました。食事制限だけで3ヶ月間減量した人の身体は次のように変わりました。
被験者の体重は平均で7.4kg落ち、筋肉は1.7kg落ちていたと見積もられました。
この研究の減量ペースは緩やかなもので、肥満体形からの減量だったことを考えると、条件的に筋肉が落ちるリスクは小さいのですが、それでも筋肉がある程度は落ちたということです。
まったく筋肉を落とさないことを目標にするなら、トレーニングが重要になるのは間違いありません。ただ、今回の記事では筋肉がこのくらい落ちると減量に悪影響が出るのかについて考えたいと思います。
筋肉のカロリー消費量
筋肉が落ちるとカロリー消費量に大きな影響があるのでしょうか?
この疑問に答えを出すヒントとして、筋肉や内臓が1日にどのくらいのエネルギーを消費しているのか調べた研究があります。この研究では、筋肉は1kgあたり1日13kcal消費するという数字になりました。
先に紹介した図1の研究では、減量によって筋肉が平均で1.7kg落ちました。この数字を使って、1日あたりのカロリー消費量の落ち幅を次のように計算することができます。
13kcal × 1.7kg = 22.1kcal
22kcalというのはアメ玉1個半くらいに相当するカロリーです。1日あたりこれくらいカロリー消費量が落ちても、たいした影響にはならないと言って良いはずです。
筋肉の落ち幅は、減量するときの条件によって変わるものです。短期間で大幅に体重を落とそうとしたり、体脂肪を限界ギリギリまで落とそうとすると、筋肉が失われるリスクは大きくなります。
しかし、仮に筋肉が5kg減ったとしても、先ほどの計算に当てはめるとカロリー消費量の落ち幅は65kcalで済むことになります。これは白ごはんで言うと茶碗1/4杯ほどでしかありません。
つまり、筋肉が大きく減るとカロリー消費量の落ち幅も若干大きくなるものの、「ヤセにくく太りやすい体質になる」と言えるほど大きな影響にはなりません。
実際のところ、わたし達の身体がどれだけのカロリーを消費するかには、いろんなものが影響しているので筋肉だけで説明しようとするのに無理があるのです。
筋肉以外のものが代謝に与える影響
内臓の影響
減量をすると体脂肪と筋肉だけではなく、内臓も重量が軽くなります。そして、このことが減量中のカロリー消費量に影響を与える可能性があります。
減量中に重量が落ちやすい臓器として、肝臓と腎臓が挙げられます。
また、肝臓と腎臓が消費するカロリーについても報告があり、それぞれの臓器1kgが1日に消費するカロリーは200kcalと440kcalになりました。
筋肉と比べると肝臓と腎臓はとても多くのカロリーを消費していることが分かります。減量によってこれらの臓器の重量が落ちると、全体のカロリー消費量に大きな影響が出てくる可能性があります。
実際にどれくらいの影響があるのか?
このことを考えるヒントとして、減量によって筋肉と内臓の重量がどれくらい落ちるかを調べた研究があります。
3週間かなり厳しい食事制限を行った結果、筋肉、肝臓、腎臓の重量の落ち幅は以下のようになりました。
重量の落ち幅 | |
筋肉 | 1.46kg |
肝臓 | 0.21kg |
腎臓 | 0.02kg |
この結果からそれぞれのカロリー消費量の落ち幅を計算すると、次のグラフのようになります。
筋肉と比べると、肝臓が消費するカロリーの落ち幅は2倍以上の数字になります。肝臓と腎臓を合わせて考えると筋肉との差はさらに広がります。
ここでは肝臓と腎臓の重量の落ち幅からカロリー消費量の落ち幅を見積もりました。しかし、減量によって重量が落ちる以外にも、内臓の働きが抑えられるとカロリー消費量が落ちる可能性があるようです。
内臓の影響はすべてを細かく正確に計算しきれるものではありませんが、少なくとも筋肉が全体のカロリー消費量に与える影響は小さいと考える材料にはなると思います。
そのほかの影響
筋肉の影響は小さく、内臓による影響が大きそうだということが分かりました。カロリー消費量に影響する要因は他にもあります。
例えば、体重が減ることそのものがカロリー消費量の低下につながります。これは身体が軽くなると、運動量が同じだったとしても、消費されるカロリーの量は少なくなるということです。
また、これ以外にも次のようなことが影響すると考えられます。
- ホルモン分泌量の低下
- 交感神経系の抑制
- 運動量の低下
ホルモン分泌量や交感神経系の働きが抑えられると、体内での代謝活動が弱まり、カロリー消費量が落ちる可能性があります。
また、減量中は自分が意識していないところで運動量が落ちてしまうもので、これがカロリー消費量の低下につながることも多いです。例えば、減量を続けるうちに元気が出なくなり無意識の内に歩かなくなったり階段を使わなくなったりするようなことが当てはまります。
全体のカロリー消費量の落ち込み
厳しい減量をするとカロリー消費量が落ち込むのは身体の自然な反応であり、避けることはできません。ここまで紹介したように筋肉以外にさまざまな要因が関係しているわけですが、全体で見るとかなりの落ち幅になることがあります。
これについてまとめた論文では、減量で体重を10%以上落とした人の場合、1日のカロリー消費量は減量前と比べて全体で20〜25%くらい落ちると報告されています。例えば、減量前に1日2500kcal消費していた人なら、500〜625kcalくらいカロリー消費量が落ちるということです。
これだけカロリー消費量が落ち込むと減量にも影響は出てきます。しかし、「どんなに食事を制限してもヤセられず太ってしまう」というほどではありません。食事量をしっかり調整すれば、体重を維持することも減らしていくことも確実に行える範囲に収まります。
また、この20〜25%という数字は全体でのカロリー消費量の落ち幅です。ここには筋肉が落ちることによる影響も含まれていますが、それは先ほど紹介したようにアメ玉で計算できてしまう程度のものです。
つまり、減量によるカロリー消費量の落ち込みは他の要因による影響がもっと大きく、筋肉による影響はごく一部に過ぎないということです。
まとめ
トレーニングを行わずに減量をすると筋肉はある程度落ちてしまうものの、カロリー消費量への影響は全体から見るとごく一部に過ぎないということを見てきました。減量で筋肉が落ちてしまっても、太りやすい体質になってしまうわけではないと言えると思います。
これはトレーニングに意味がないということではなく、筋肉が落ちてしまうことに神経質にならなくて大丈夫だということです。
例えば、食事制限はできるけれどトレーニングを始めるのがキツいと感じたり、減量中にトレーニングを継続できないと感じたりするようなら、まずは食事や生活習慣を整えることに力を入れてみても良いと思います。
食事を改善して体脂肪が落ちると、それだけでさまざまなメリットが得られます。
食生活が安定して余裕ができてくれば、運動を始めてみようという気持ちになれるかもしれません。この段階でトレーニングを始めてみても良いと思います。週1回のような軽い内容からでも良いでしょう。
筋力トレーニングは筋肉を増やしたり、体脂肪を落としたりする効果も期待できますが、その他にも健康に関するさまざまなメリットがあります。例えば、次のようなことが挙げられます。
- 筋力アップ
- 関節可動域の拡大
- 心肺機能の向上
- 高血圧の改善
- 血液検査項目の改善
- 骨密度アップ
筋力トレーニングの効果については過去に記事としてまとめています。ご興味がある方は併せて読んでいただけると嬉しいです。
こういった効果が、生活の質を高めるのにも役立ってくれるはずです。実際に、私がこれまでに指導させていただいたクライアントさんには、筋力トレーニングを始めてから元気が出てバリバリ働けるようになったり、体力に不安を感じずにお子さんと遊べるようになったりと、「人生の幅が広がった」と喜んでくれた方がたくさんいます。
食事もトレーニングも効果を継続的に得るためには、ご自身ができる範囲で続けるということが最も大切だと思います。短い期間だけ頑張っても、途中でやめて元の生活に戻ってしまうと、長い目で見て体力や健康を改善することにはつながりません。
できることから始めて、少しずつできることの範囲を広げていく方が、生活に馴染ませることができて長続きしやすいと思います。
食事もトレーニングも長く続けられると、結果として幸せにつながってくれるはずです。
ちょうど減量中で、仕事も忙しくなかなかトレーニングができなくてあせっていたので、この記事は本当に助かりました!飴玉1個!!!
petitpiaf111さん、コメントありがとうございます。
この記事がお役に立てて何よりです^^
トレーニングの間隔が少しあいてしまっても、筋肉への影響は気にされなくて大丈夫だと思います。
焦らずに減量頑張ってください!