減量期間中、カロリー収支がマイナスの状態が続くと、同じ生活を続けていても毎日のカロリー消費量が少しずつ落ちていくという現象が起こります。
まず、体重が減ると軽くなった身体を動かすために必要なエネルギーも小さくなります。このことだけでも、減量が進むにつれてカロリー消費量が小さくなるのは自然なことだと言えます。しかし、実際のカロリー消費量は体重が減る分以上に落ちてしまいます。
こういった身体の変化は「代謝適応」と呼ばれます。俗に「飢餓モード」という言葉が使われることもあり、カロリー消費量の落ち込みを回復させるために「チートデイ」が有効だと言われることもあります。1日好きなだけ食べてもよい日を設けることで代謝が上がり、カロリー消費量を戻すことができると聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
例えば、地上波のテレビ番組では「究極のダイエット法」として紹介されていたりもします。
今回はこのカロリー消費量の落ち込みと、その対策を考えます。
まず、基本的な前提として、厳しい減量をするとカロリー消費量が落ちていくのは自然なことで、ある程度は避けられません。ただ、カロリー消費量の落ち込みを少しでも和らげるための工夫として、AthleteBody.jpで減量指導を行う際には一般的なチートデイではなく、「ダイエット休み」と「リフィード」という食事法を取り入れています。
カロリー消費量が落ち込むのは減量の影響によるものなので、対策のポイントは食事制限をゆるめることになります。簡単に言うと以下のような内容です。
- ダイエット休み
減量中に1〜3週間程度、カロリー制限をゆるめる期間を作ること - リフィード
減量中に1日単位でカロリー収支が釣り合うところまで炭水化物を増やすこと
こういう方法を取るのは、チートデイのように1日だけ大量に食べても、それに見合うだけカロリー消費量が増えたり減量がスムーズになったりする効果は期待しにくいと考えられるからです。
このあたりの科学的背景について、AthleteBody.jpから新たに発売した書籍「肉体改造のピラミッド」から関連する部分を抜粋してご紹介します。
▽ 以下引用 ▽
これまでにリフィードの効果に特化した研究は行われていませんが、減量中にカロリー消費量が落ちてしまうのを和らげるという狙いはダイエット休みと共通しています。1
ダイエット休みでは、カロリー収支が釣り合うくらいの食事量を1週間~数週間に渡って続けるのに対して、リフィードは24時間に限られます。その分、カロリー消費量の落ち込みを和らげる効果も小さなものになると考えるのが自然かもしれません。
それでも、理論的には24時間のリフィードを取り入れることでレプチンというホルモンの分泌が促され、減量によるカロリー消費量の落ち込みが多少なりとも回復する可能性は考えられます。また、リフィードではカロリー収支が釣り合う程度まで炭水化物の摂取量を増やすので、体内のグリコーゲン量を回復させることにつながります。
持久系アスリートを対象にグリコーゲンの回復を調べた研究では、大量の炭水化物を摂ると1日で筋グリコーゲンが限界近くまで回復することが見られました。2 ここで勧めるリフィードでは条件が違い、それほど大量の炭水化物を摂るわけではありません。それでも減量から来る倦怠感が和らいで活動的になれたり、ジムでのパフォーマンスが向上したり、それが長いスパンで見ると筋肉を維持することにつながったりする可能性は考えられます。
また、心理面に関して参考になる研究もあります。この研究では被験者を2グループに分けて減量をしてもらいました。片方のグループは1日1500kcalのカロリー摂取量で1週間10500kcalという設定だったのに対して、もう一方のグループは6日間を1日1300kcalに抑え、7日目に2700kcal摂るという設定でした。1週間での合計カロリー摂取量に違いはありませんが、後者の方が減量へのヤル気が出たり、気分が良かったりしたと被験者の感じ方の違いが報告されています。3
ただ、上記の筋グリコーゲンを1日で回復させたという研究では、体重1kgあたり炭水化物10gという量を摂っています。体重70kgであれば1日に炭水化物を700g摂るということですが、これではカロリー収支が大きくプラスに振れてしまう可能性が高くなります。減量中にリフィードに期待する効果を得るには、カロリー収支を大きくプラスにする必要はありませんし、仮にそれだけ摂るのであれば数日に分けて摂った方が有効かもしれません。
これに関連して、女性が食事制限を行った研究があります。4 被験者の女性はホルモン分泌に変化が見られ、これは食事制限の影響による生理周期の乱れの兆候と考えられました。そのタイミングで被験者にカロリー収支が大きくプラスになる食事を1日摂ってもらったところ、ホルモン分泌は元に戻りませんでした。
しかし、他の研究ではカロリー収支が概ね釣り合う食事量で48時間過ごしたところ、このホルモンの乱れが元に戻り始めるのが見られました。5 つまり、減量で起こるホルモンバランスの変化を戻すのには、リフィード時のカロリー摂取量も大切なのですが、カロリー収支がマイナスでない期間をどれだけ取るかということも影響するようです。
ホルモンバランスの変化を戻す効果を期待するには、カロリー収支が大きくプラスに振れる量を1日で食べたとしても十分ではなく、48時間以上はカロリー収支がマイナスでない状態を作る必要があるようです。
ただ、これで24時間のリフィードにはまったく意味がないと言い切れるわけでもありません。当たり前のこととして、減量中はカロリー収支がマイナスの状態が続きます。そして、ホルモンバランスの変化はその期間に何日もかけて少しずつ積み重なっていくものです。1日だけカロリー収支がマイナスでない状態で過ごすのがカロリー消費量を回復するのには不十分であったとしても、カロリー消費量の落ち込みが進まない日を1日作ると考えることはできるはずです。
また、他にもリフィードを入れることで精神的、生理的に良い効果が得られるかもしれません。精神的に休まったり、生活に活力が戻るということに加えて、炭水化物の摂取量が増えれば筋グリコーゲンが回復してトレーニングが充実したり、そのことで筋肉を維持しやすくなったりする可能性はあります。
リフィードを取り入れるときに重要なのは、コントロールを失ってドカ食いに走ってしまわないということです。カロリー収支が釣り合うくらいの量を計算して、炭水化物を中心に食事量を増やすようにしましょう。
引用元:肉体改造のピラミッド P.104
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