筋肥大ペースの遺伝的個人差

投稿者 : Greg Nuckols

筋肥大ペースの遺伝的個人差 AthleteBody.jp筋力トレーニングを行なったときに、どれだけ筋肉を増やすことができるかには大きな個人差があります。

以前に、「遺伝的に生まれ持った筋肉量の限界とは?」の記事で、遺伝的に非常に恵まれた人がドラッグフリーで到達できる筋肉量の限界について取り上げました。体質的に筋肉を増やしやすい人が何年にもわたってトレーニングを続けた場合に、どのくらいまで筋肉を増やせるかということです。こういう条件に当てはまるのはごく一部の限られた人で、大多数の人にとって現実的ではありません。

今回は、筋肉が増えやすい体質の人と、増えにくい体質の人では、実際にどの程度の個人差があるのかについて考えます。この記事は情報量が多く複雑な内容なので、筋肥大に関連の高い部分に絞る形で40%程度短縮しています。少しでも多くの情報に触れたいという方は、フルバージョンをご覧ください。

この記事のキーポイント

  • 体質的に筋肉の増えやすい人と増えにくい人の差は非常に大きい。
  • もともとガタイが良いか華奢かで筋肉量の伸び代は判断できない。
  • うまく結果が出ない場合、自分に合ったトレーニングを探すのが大事。
  • 自分の勝手な基準で他人の努力や結果を見下してはいけない。

=== ここから短縮バージョン ===

遺伝というのはデリケートな話題です。遺伝について語ろうとすると、私たちの生き方について最も根源的な部分に目を向けることになり、感情的な議論になってしまうこともあります。

  • 人生における成功とは、どれだけが才能によるもで、どれだけが努力によるものなのか?
  • 自分の達成できる結果は、どれだけ自分でコントロールできるものなのか?
  • 自分の人生は本当に自分が決めるものなのか、自分のDNAと環境が決めてしまうものなのか?

少なくともアメリカでは、科学者でさえも遺伝が運動パフォーマンスに与える影響を研究することに積極的ではなく、政府もそういった研究に積極的に資金提供しようとしません。それだけデリケートで扱いづらいテーマだということでしょう。

科学者や政府関係者に限らず、私たちはみんなこのテーマについて、大なり小なり自分なりの信条を持っていたり、場合によっては偏見を持っていたりすると思います。そして、遺伝に限らず議論の多いテーマでは起こりがちなことですが、最も極端な見方が、最も声高に叫ばれるように思えます。

私たちの文化には「努力がすべて」という考え方が深く根付いています。すべての人は同じ位置から平等にスタートを切り、一生懸命努力をした者だけが一流になることなることができる。成功も失敗もすべて、毎日の自分自身の選択の積み重ねによって決まるという考えです。

それに対して、人の生き方は生まれ持った遺伝子と育った環境によって決まるとする遺伝子決定論というものがあります。自分では自分の意思で人生を切り開いているように感じていても、実際には遺伝子と環境に操られているだけであるという考え方です。

この二つの考え方はどちらも極端なもので、おそらく大多数の人の見方は、その間のどこかに落ち着くと思います。この記事では、自分自身ではコントロールできない要因が筋力トレーニングの成果にどれだけ影響するか、そしてその影響をどう受け止めるべきかを考えたいと思います。

ヒトの遺伝子は99.9%共通

遺伝的要因がトレーニングへの適応に大きく影響するという考えに抵抗を感じる人は少なくありません。多少の個人差はあっても、そこまで違わないだろうということです。

ほとんどの教科書では、ヒトの遺伝子は99.9%共通という数字が使われています。ヒトの遺伝子は大部分が共通なのであれば、私たちはみんなほぼ完全に同じはずだということになります。どういうことでしょうか?

遺伝子が共通であるというのは、体内で同じ種類のたんぱく質を作ることができるということです。ただし、実際の外見や機能については、少しの遺伝子の違いが非常に大きな違いになって表れます。例えば、ヒトはチンパンジー、ゴリラ、バブーンといった霊長類と97~99%の遺伝子を共有しています。さらに、マウスとは92%、ハエとは44%、イースト菌とは22%の遺伝子を共有しています。つまり顕微鏡で見るような細かなレベルでは、私たちはチンパンジーと比べて1%、マウスと比べて8%しか変わらないということになります。

しかし、ひとつの生命体として全体を見たときには、私たちとチンパンジーの間には1%以上の違いがあり、マウスとの間には8%以上の違いがあるということに異論のある人はいないでしょう。DNAにある小さな違いは、私たちの外見、機能、思考などに大きな違いとして表れます。これはヒト同士でも言えることで、たった0.1%の違いが大きな違いとして表れます。

図1 遺伝的個人差 AthleteBody

△ 0.1%が大きな違いを生む。Credit

さらに、ヒトの間では99.9%共通である遺伝子にも「型」という種類があり、同じ遺伝子でも型によって機能の仕方にちがいが出てきます。例えば、爆発的パフォーマンスに影響するATCN3という遺伝子があります。ある型のACTN3では爆発的パワー系パフォーマンスにプラスの影響があり、ちがう型ではマイナスの影響があります。(ただし、有酸素系パフォーマンスに好影響がある可能性があります。)これまでにこのような遺伝子が22確認されており、それぞれの遺伝子の型によって筋力やパワーにプラスやマイナスの影響があったり、影響がなくなったりします。

同じ遺伝子に型の違いが存在するだけでなく、同じ遺伝子を持つ数にも違いが存在します。また、同じ遺伝子の同じ型を同じ数だけ持っていたとしても、その遺伝子が実際にどのような働きをするかには生活スタイルやその他の後天的要因が影響してきます。

トレーニングに対する筋肥大の個人差

ひとことで言うと、筋肥大の個人差は非常に大きいです。

まず、トレーニングをしていない人同士でも筋肉量にちがいがあるのは分かりやすいと思います。この個人差の80%程度が遺伝的要因で説明可能です。もちろん、身長と体重が大きい方が除脂肪体重も大きくなります。身長と体重も遺伝的要因の影響を強く受けますが、それを考慮しても、体重に対する除脂肪体重の個人差の約50%が遺伝的要因によるものです。

その他の身体能力に関わる要素にも遺伝が強く影響します。例えば、遅筋や速筋と言われる筋線維のタイプの比率にも個人差があり、これは45%程度が先天的な遺伝によって説明可能なようです。さらに、筋線維タイプに影響する後天的な要因は、主に幼児期に起こるもので、やはり大人になってからコントロールすることができないものです。

そして、ここに筋力トレーニングが入ると、個人差はさらに大きく開いていきます。

研究1:大規模な腕のトレーニング研究

この研究では、585人の被験者を集め、利き腕ではない方の腕を鍛えるトレーニングを12週間行ってもらいました。トレーニングはカール系種目とトライセップエクステンションを6セットという内容です。トレーニング頻度は論文に明記されていませんでしたが、おそらく週1回だったと考えられます。

12週間のトレーニングのあと、被験者の上腕二頭筋は平均19%大きくなり、アームカールの1RMは平均54%伸びました。しかし、各個人の変化に目を向けると、非常に大きな幅がありました。この研究に参加したのはトレーニング習慣のない人たちでしたが、最も変化の大きかった人では上腕二頭筋が59.3%も大きくなった一方で、上腕二頭筋が小さくなった人も数人いたのです。

図2 上腕二頭筋の筋断面積の伸び幅 AthleteBody

筋力の変化を見ると、アームカールの1RMが250%も伸びた人がいた一方、まったく重量が伸びなかった人が数名いて、筋肉量の変化以上に大きな個人差が見られました。

研究2:脚のトレーニング研究

この研究では、やはりトレーニング習慣のない被験者を66人集めて、もう少しキツい脚のトレーニングを行いました。スクワット、レッグプレス、レッグエクステンションを8~12回×3セット、限界ギリギリまで挙上するトレーニングを週3回、目標回数がこなせたら重量を増やすという内容で16週間行われました。

16週間のトレーニングのあと、被験者は3つのグループに分けられました。

  • 上位グループ:筋肉の増え幅が大きかった25%(17人)
  • 中間グループ:筋肉の増え幅中間だった50%(32人)
  • 下位グループ:筋肉の増え幅が小さかった25%(17人)

下位グループの被験者の結果を平均すると、筋線維が目立って大きくも小さくもならないという結果になりました。
中間グループの被験者は、筋線維が平均28%大きくなりました。16週間のトレーニングではまずまずの結果です。
上位グループの被験者は、筋線維が平均58%大きくなりました。中間グループの被験者の約2倍にもなる結果です。

さらに、上位グループでは、上位グループの他の被験者と比較しても筋線維の成長が突出して大きな被験者がひとりいました。

図3 外側広筋の筋繊維の断面積の変化の個人差 AthleteBody

トレーニング開始時点でのこの人の筋線維の断面積が上位グループの平均値あたりだったとすると、この人の筋線維は16週間のトレーニングで75~80%も大きくなったことになります。

筋力の変化を見ると、この研究ではグループ間で大きな違いは出ませんでした。下位グループと中間グループのレッグエクステンションの1RMは約35~38%伸び、上位グループの伸びは約45%になりました。上位グループの被験者は中間グループの被験者よりも筋線維の成長幅が約2倍ほど大きく、下位グループの被験者の筋線維はほとんど大きくならなかったのにもかかわらず、挙上重量の伸び幅の違いはずっと小さなものになりました。

それよりも重要なのが、各グループでの挙上重量の伸び方のパターンです。トレーニング開始から8週間の時点で、すべてのグループで重量の伸び幅は似通っていました。しかし、下位グループでは、重量が伸びた分の80%が前半8週間に集中しており、その後の8週間では重量に大きな伸びはありませんでした。一方、中間グループと上位グループでは、前半8週間で伸びた分は全体の2/3程度で、後半8週間でも着実に重量を伸ばすことができています。

図4 レッグエクステンション1RM重量の伸び幅 AthleteBody

トレーニングを始めてすぐの段階では、神経系の適応が進むことで筋力が伸びていきます。筋肉量が増えないわけではありませんが、それ以上にいまある筋肉を使って力を出すのがうまくなっていくということです。この研究の前半8週間で、下位グループが他の2グループと同じペースで筋力を伸ばすことができたのは、筋肥大が起こっていないことがこの時点では大きな問題にならなかったからです。しかし、後半8週間では、筋肥大が起きた2グループのみが良いペースで着実に挙上重量を伸ばすことができたということです。

この研究に参加した被験者には、若い男性・女性(20~35歳)と年配の男性・女性(60~75歳)がいました。筋肉が大きく増えた上位グループは若い男性で、筋肉が増えなかった下位グループは年配の被験者だと考えたくなるところですが、実際には必ずしもそうではありませんでした。

たしかに若い男性は中間グループか上位グループに多い傾向はあり、年配の被験者の38%は下位グループに入ったものの、すべてのグループに各年齢・性別の組み合わせが少なくとも1人は存在し、各年齢・性別の組み合わせのおよそ半数は中間グループに入る形になりました。つまり、すべての若い男性が必ずしも筋肉を大きく増やして、年配や女性の被験者が筋肉を増やせないという結果ではなかったのです。

また、この研究では、トレーニング量、強度、実際のトレーニングの参加頻度などについても報告されていましたが、3グループ間に違いはありませんでした。つまり、筋肉を大きく増やした被験者は、単に他の被験者よりもトレーニングを頑張った成果が出たのだと考えることもできません。

研究3:栄養管理をしたトレーニング研究

この研究でもよく似た傾向が見られます。被験者の栄養摂取量についてのデータを取った上で、筋肉量と筋力の変化を調べた貴重な研究です。

この研究では、56人の被験者の内、12週間のトレーニングによる除脂肪体重の増え幅の大きかった上位20%と小さかった下位20%を比較しました。

図5 12週間での除脂肪体重の増え幅 AthleteBody

上位グループの除脂肪体重の増え幅は、下位グループの約4倍になりました。遅筋線維の増え幅は上位グループで16%、下位グループで6%、速筋線維は上位グループで26%、下位グループで8%という増え幅になりました。

筋力の伸び幅については、上で紹介した研究と同じようにグループ間での違いがずっと小さくなりました。レッグプレスとレッグエクステンションの挙上重量は上位グループの方が少しだけ伸び幅が大きくなりましたが、やや大きく違いが出たレッグエクステンションでも上位グループ72%に対して下位グループ59%で有意差には至りませんでした。

トレーニング内容が自分に合っているか

ここまでに紹介した研究1〜3では、すべての被験者が同じトレーニングを行いました。この3つの研究の結果からなにを学べるかを考えるにあたって、このことは大きな弱点になります。

これらの研究では、研究で使われた個別のトレーニングプログラムに対する被験者の反応にどの程度の個人差があったかを知ることはできます。しかし、これらの研究の被験者がトレーニング全般に対してどの程度の反応を示すかということまで答えを出すことはできません。

これらの研究では、筋肉量、筋力、持久力が伸びなかった被験者がいました。この人たちが必ずしも体質的に筋肉量、筋力、持久力を伸ばすことができないというわけではありません。これらの研究から言えるのは、それぞれの研究で使われたトレーニングプログラムでは、この人たちに変化が見られなかったということまでです。

長くジム通いを続けていると分かることですが、どういうスタイルのトレーニングで良い結果が出るかには、人によって違いがあります。これまでのトレーニング経験、生活の中でのストレス、睡眠時間、カロリー収支がプラスかマイナスか、十分なたんぱく質を摂れているかといった要素が影響してきます。これらはすべての人に重要で、どういうトレーニングをすべきかや、どういう結果が得られるかに影響するものです。しかし、こういった要素だけで個人差のすべてに説明が付くものではなく、もっと根本的なレベルで、人によってトレーニングへの反応の仕方に違いがあり、どういうトレーニングで結果が出るかにも個人差があるものです。

多くの人にとって効果の高いトレーニングや、効果の低いトレーニングというのは確実に存在します。トレーニングに関する科学的知見にあたると、こういうものを学ぶことができます。また、トレーニング指導者は、基本となるトレーニングの枠組みを持っていて、自分の指導するクライアントの多くがどういう反応をするかを見ながら微調整を加えるものです。つまり、多くの人や多くの状況にとってベストであったり、少なくともベターになるものがあって、このサイトでも基本的にそういうトレーニングに関する情報を掲載しています。

しかし、多くの人にとって効果的なトレーニングがあっても、すべての人がそれで良い結果を出せるわけではありません。人によって高回数が合う場合もあれば、低回数が合う場合もあります。いろんなトレーニング種目を取り入れてうまくいく人もいれば、種目数を限定する方がうまくいく人もいます。高頻度のトレーニングがうまくいく人もいれば、そうでない人もいます。

短期の研究と長期の現実

ここまでに紹介したのは、すべて短期間の研究で得られた結果であることに注意してください。長いものでは16~20週間程度の期間を掛けた研究もありますが、トレーニングを続けることで起こる身体の適応は何十年というスパンで考えるものです。

ここまでに紹介した研究結果から、短期間のトレーニングへの身体の適応にどのくらいの個人差があるかを知ることはできます。しかし、長く続くトレーニング人生全体でどのくらいの筋肥大を期待できるのかを知るにはあまり参考になりません。

長いスパンで見た筋肥大には特に重要な要因が4つあり、ここでも遺伝的要因が強く影響していると考えられます。

  • 骨格のサイズ
    骨格の横幅や厚みが身長と同じくらい遺伝的要因の影響を受けると仮定すると、骨格のサイズの個人差の70~95%程度が遺伝的要因で説明が付くということになります。
  • 生まれ持った筋線維の数
    筋線維の数は、遺伝的要因と妊娠中の胎内環境によって決まり、生まれた後は基本的に変わりません。筋線維の数が増えるというエビデンスもあるにはありますが、実質的には生まれたときから、高齢になって徐々に筋線維の数が減り始めるときまで、筋線維の数は変わりません。生まれ持った筋線維の少ない人は、それだけ最終的に増やせる筋肉量が抑えられることになります。
  • トレーニングに対する適応
    トレーニングで起こる筋肥大の個人差はすでに紹介したとおりです。現在までの研究から確実に言えることは、特定のトレーニング方法でどれだけの効果が得られるかには個人差があるということまでですが、具体的な方法を問わず、トレーニング全般で良い反応を示す人とそうでもない人がいるのは否定しがたい事実です。
  • ステロイド使用
    ホルモン摂取に対する身体の反応も遺伝的な個人差があるようです。また、当然ながら摂取量を増やすとその効果も大きくなります。トレーニングキャリア全体で見ると、筋肉量の増え幅を概ね2倍程度に増やせるようです。

長い期間を掛けて最終的に到達できる筋肉量に遺伝的要因がどれだけ影響するのかを本当に突き止めるには、各個人に最適なトレーニングと栄養管理プログラムを設定し、20年間プログラムを確実に実践し続けるランダム化比較試験(研究手法の一種)が必要になります。そんな研究は現実に起こり得ません。

自分の遺伝的体質(才能)を知る術は?

ここまで読み進めて、筋肉量や筋力を増やすという意味で自分自身の遺伝的体質がどうなのか気になる人もいると思います。少なくとも、手軽にかつ正確にその答えを知る術はありません。

遺伝子検査は、数万円のお金を掛けるのが惜しくなければカンタンな方法ではあります。しかし、検査結果が、自分の持つ可能性についてハッキリした答えをくれるとは期待しない方が良いでしょう。

他の選択肢として、生体組織検査があります。このビデオでどういうものか見られます。少なくとも遺伝子検査よりも正確だと言えますが、遺伝試検査よりもずっと大変です。必要な時間や費用を考えると、大多数の人にとって現実的な選択肢とは言えないでしょう。

生まれつき華奢かガタイが良いか

トレーニングを始める前にどのくらいの筋肉量があったかや、トレーニングを始めて数ヶ月のあいだにどのくらい挙上重量が伸びるかを見て、どのくらい筋肉量や筋力を伸ばせる「才能」があるかを推し量ろうとする方法があります。「方法」と呼べるようなものでもありませんが、遺伝子検査や生体組織検査よりもはるかに一般的ではあります。

しかし、トレーニングを始める前の筋肉量や、トレーニングを始めて数ヶ月の挙上重量の伸びを見ても分かることはほとんどありません。

  • 先に紹介した研究1では、開始時点での筋肉量と、筋肉の増え幅に関連は見られませんでした。
  • 研究2では、筋肉量の増え幅の大きかった上位グループの被験者と、増え幅の小さかった下位グループの被験者を比べて、開始時点の筋線維の大きさと筋力に違いはありませんでした。
  • 研究3でも、筋肉量の増え幅の大きかった上位グループの被験者と、増え幅の小さかった下位グループの被験者は平均して、開始時点のBMI、体脂肪量、速筋と遅筋の量、レッグプレスとレッグエクステンションの1RMといった項目すべてで違いがなかったのです。つまり開始時点で、身体的な違いはまったく見られていませんでした。

筋力の伸びについてもよく似た傾向が見られます。研究3では、12週間で上位グループと下位グループの間で筋力の伸びに違いはありませんでした。研究2では、はじめの8週間の筋力の伸びは、上位グループ、中間グループ、下位グループすべてで違いがありませんでした。16週間の期間全体でも、上位グループと中間グループには筋力の伸びに違いは出ませんでした。

研究1では、トレーニング開始前の筋肉の大きさと12週間のトレーニングでの筋肉の増え幅に目立った関連は見られませんでした。さらに、トレーニング開始前の筋力とトレーニング後の筋力の伸び幅には、負の相関関係がありました。トレーニング開始前に筋力の弱かった人の方が大きな伸びを示したということです。これは、筋肥大しやすい体質かどうかと、筋力の伸びには強い関連がなかったと見ることもできます。

全体として、トレーニングを始める前の筋肉量や筋力と、トレーニングでどれだけ伸びるかは完全に別物だと言えるでしょう。本当に高いレベルに到達できるのは、おそらくトレーニングを始める前から筋肉量や筋力が高く、さらにトレーニングで得られる伸び代の大きい人でしょう。しかし、トレーニングを始める前の筋肉量や筋力を見て、トレーニングでどれだけの伸びを得られるかを知ることはできないと言えるでしょう

「自分はトレーニングを始める前はガリガリで、明らかに遺伝的に恵まれていなかったけど、こんなにデカくなった!だれでも頑張ればできる!」という類のストーリーを目にすることがあると思います。ここまでに見てきたデータを踏まえると、これは残念ながら的外れということになります。トレーニングを始める前にガリガリの人も、遺伝的体質という意味では大きな伸び代を持っている可能性は十分にあるわけです。

また、全体を平均して見ると筋肥大しやすい人も筋肥大しにくい人も、トレーニングを始めてから8〜12週間程度はよく似たペースで筋力が伸び、その後伸び方の違いが表面化してくるようです。

トレーニングを始めてすぐの数ヶ月で、思うほど挙上重量が伸びなかったとしても、必ずしも伸び代がないとは限らないと言うこともできます。実際には筋肥大しやすい体質なのが、目に見える結果として表れていないだけで、長く続けていくと筋肉量が増えて、大きな重量を挙げられるようになるかもしれません。「ウサギとカメ」の話に例えると、カメのような経過をたどるケースです。言い換えると、ウサギにあたる人もいるわけです。そういうケースでは、トレーニングを始めてすぐの時期に大きく挙上重量が伸びるものの、その後なかなか筋肉量が増えず、挙上重量も伸び悩んでしまうという経過が考えられます。

努力 VS 才能

努力か才能かという議論の答えは、ほとんどの場合で明らかに「両方」なのですが、そうは考えない人もいます。「生まれ持った遺伝的要因なんて、ただの言い訳だ。必死の努力がすべてだ。徹底的にやり込んで頂点に立ってやる」という考え方です。

残念ながら、それが実現する可能性は大きくありません。

練習とパフォーマンスの関係について、さまざまな分野の研究をまとめたメタ解析が最近発表されています。「努力」と「結果」の関係と言うこともできますが、全般的に言ってあらゆる分野で、パフォーマンスの個人差に練習量が与える影響は1/4にも及ばないという結果が出ています。練習や努力はまちがいなく必要ですが、才能に恵まれなければ努力でひっくり返すことはできません。

図8 パフォーマンスの個人差が-練習量で説明できる割合 AthleteBody

繰り返しますが、努力に意味がないということではありません。知識を身につけて効果的な練習やトレーニングに全力で打ち込めば、1段階上に行けると考えると良いと思います。

  • 普通の練習をしていて四流のパフォーマンスであれば、努力次第で三流になれるかもしれません。
  • 普通の練習をしていて三流のパフォーマンスであれば、努力次第で二流になれるかもしれません。
  • 普通の練習をしていて二流のパフォーマンスであれば、努力次第で一流になれるかもしれません。
  • 普通の練習をしていて一流のパフォーマンスであれば、努力次第で超一流になれるかもしれません。

本当の頂点に立つような人は、もちろん努力をしているでしょうが、その前に生まれ持った才能に恵まれていたということです。

さらに言うと、私たちが、どれだけ一貫性を持って練習を続けるかというのも、一定程度遺伝的要因に影響されます。

この記事の情報の活かし方

自分自身のトレーニングと目標の決め方

ここまでに分かっていることをまとめます。まず、同じトレーニングを行っても、どれだけの効果を得られるかには非常に大きな個人差があります。そして、どういうトレーニングで最も効果を得られるかにもおそらく違いがあります。

トレーニングを始めてすぐの段階では、そのプログラムで自分がどれだけの成果をあげられるかを推し量るのに、少なくとも4ヶ月は一貫性を持って続ける必要があります。(トレーニング経験がある人の場合は、もう少し短い期間でそのプログラムが自分に合っているか見当が付くでしょう。)

あるプログラムで良い結果が出なくても、トレーニングのスタイルが変わるとうまくいく可能性は十分にあります。他のスタイルで組まれたプログラムを少なくとも2〜3種類は試してみるべきです。これは、遺伝的に恵まれている人にも当てはまります。どんなスタイルのトレーニングが合うかは人それぞれ違うので、自分に合ったスタイルを見つけるまでいろいろと試してみるのは決して悪いことではありません。

それとは別に、気持ちの持ち方も結果に大きく影響します。

自分には良い結果を出せるという前向きな気持ちで実際にトレーニングを打ち込んでみるまで、自分にどれだけ才能があるかは分からないものです。自分は遺伝的に恵まれていると信じて、少なくとも1年間は一貫性を持って自分にとってキツいトレーニングを続けるまでは、自分が遺伝的に筋力トレーニングに向いているかどうか答えを出すことはできないでしょう。

うまくトレーニングの成果が出ないとき、遺伝的体質の問題だということはたしかにあります。しかし、十分に試してみる前にそう決め付けてしまうと、自分自身の可能性にフタをしてしまうことになります。

自分の限界を感じたら

この記事を読む人の中には、もう何年かトレーニングを続けてきて、「自分は目立って強くデカくなれる体質ではない」と明確に感じている人もいるかもしれません。

そういう人には、とにかくトレーニングを楽しむ方法を探すのが良いのではないかと思います。自分が楽しいと思えるトレーニングのスタイルを見つけて、どんな結果が得られるかよりも、トレーニングの過程を楽しむということです。

筋力トレーニングには、数え切れないほどの効果があります。例えば、認知機能や自己肯定感の向上、死亡リスクの低減などがあげられます。こういった効果は必ずしも筋肥大や筋力向上を前提とせず、トレーニングを行うことそのもので得られるものです。

トレーニングを続けることで得られる効果で最も重要なのは、加齢に伴う体力低下を抑えられることかもしれません。年齢と共に、筋肉量よりも筋力と機能の方が速いペースで落ちていく傾向があります。これには神経系の変化による影響が少しありますが、大部分は筋肉を使わないことによるものです。(そして、使わないことが神経系の変化にもつながっていきます。)トレーニングを続けることで、筋肉量や筋力を大きく伸ばすことにはつながらなくても、いまある筋肉、筋力、機能を維持することには必ず役立ちます。

また、人の遺伝的体質は時間と共に変化することも無視できません。生まれ持った遺伝子の中で、どの遺伝子が働くか、もしくは働かないかというのは環境や生活習慣の影響を受けて変化します。そして、この遺伝的体質の変化に影響を与える要因は、運動をすると良い方向に変化する傾向があります。加えて、遺伝子発現パターン、全身の炎症状態、ホルモン分泌などもトレーニングをすることで良くなることが多いです。

こういった体質の変化が、トレーニングで得られる効果を伸ばしてくれる可能性はあります。これは、まったくの効果を得られない状態からチャンピオンに押し上げてくれるというようなものではないので、過度の期待は禁物です。しかし、短中期的にはほとんど目に見える変化が得られなかった人でも、地道な努力を5年10年と積み重ねることで、十分に胸を張れる結果を得ているケースは多くあります。

遺伝的体質に恵まれた人は、モチベーションを上げるための話なんて必要ないでしょう。存分にデカくなってください。

他の人の成果の見方

まず、トレーニングでなかなか目に見える成果が出ない人を下に見たり、いびったりしないことです。自分の勝手な基準で「強い」や「デカい」と思うレベルに、自分の勝手な基準で決めた期間内に到達していないからと言って、その人は怠けているのだと考えてはいけません。トレーニングは、生まれ持った体質によって結果の出方がまるで違うのです。不公平ではありますが、そういうものです。

また、強くてデカい人の言うことはなんでも正しくて、弱くて小さい人の言うことは聞く価値がないと考えることもできません。

全体として見ると、強くてデカい人は知識も豊富な傾向はあるでしょう。しかし、個人レベルで見ると、それがすべての人に当てはまるとは言えません。目に見えて強かったりデカかったりするわけでない人は、ただ遺伝的体質に恵まれていないだけかもしれないのです。自分より強くないから、デカくないからという理由で人を判断しないことです。

筋肥大に関わる遺伝的体質のまとめ

生まれ持った遺伝的特徴に加えて、妊娠中の胎内環境や、幼児期の生活環境といった大人になってからどうにもできない要因が、トレーニングを始めたときにどれだけ効果を得られるかに強く影響します。さらに、こういった要因は、どういうスタイルのトレーニングで効果が得られるかにも影響を与えると考えられます。

しかし、自分がどれだけ筋肥大しやすい体質なのかを、手軽にかつ正確に知る術はありません。トレーニングを始める前には筋肉量も筋力も同じレベルの人たちが、同じトレーニングを行なっても、筋肉量と筋力の伸び幅には大きな違いが出てきます。さらに、トレーニングを始めてすぐの時期に挙上重量が伸びるのは、筋肥大よりも神経系の適応が主に影響しているので、筋肥大の違いが挙上重量の違いになって表れるには3ヶ月以上の時間が掛かります。

自分の体質がどうなのかは、長い期間、真剣にトレーニングに取り組んでみて初めて分かります。

トレーニングをしてどれだけ筋肥大が起きるかは非常に大きな個人差があるので、トレーニングに関してデカい人の言うことはすべて正しいと考えるべきではありませんし、すごい身体をしていない人は怠けているだけだとか、トレーニングについてなにも知らないと考えるべきでもありません。

結局のところ、筋肉を増やしたいと思ったら、いろんなスタイルを試しながらハードなトレーニングを長く続ける以外にできることはありません。最終的にどんな結果になるかは別にして、それが自分の生まれ持った可能性を引き出す唯一の道だということになります。

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Greg Nuckols

グレッグ・ナコルズはアメリカのストレングスコーチです。
世界トップクラスのパワーリフターでもあり、スクワット342.5kg、ベンチプレス215.5kg、 デッドリフト329kgの自己ベストを誇ります。
現在はPhD取得に向けて活動しており、科学的知識と最前線で戦うアスリートとしての経験の融合を自身のテーマとしています。

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コメント

  1. 身体作りに限らない、普遍的な示唆のある記事ですね。

    ジムで仲良くなった大学生の青年は、3年か4年のトレーニング歴らしいですが、10年やってる私なんか足元にも及ばないデカさで、始めた年齢の違いを考慮に入れてもその現実に気が滅入ります。

    でもまあ、中年になってから子供の頃からの劣等感を克服するのもなかなか悪くないです。
    若い時は自分の才能を見極め、進む道を選ぶのも大切ですが、この年(40代後半)にもなったら、自分に向いているわけではないし、仕事につながるわけでもないことに必死に努力するのも、それはそれで人生が豊かになる気がします。
    強がりですけど。

    1. penさん、こんにちは。いつもありがとうございます。

      >それはそれで人生が豊かになる気がします。
      これはおっしゃる通りで、とても大事なことだと思います。
      筋トレは体質に恵まれた人だけのものではなく、幅広い人が幅広いレベルで幅広い恩恵を得られるものだという見方が少しでも受け入れられるといいなと思います。

  2. 素朴な疑問なのですが、本稿内の実験は例えば食生活や睡眠時間などの条件が全て同一だったのでしょうか?
    きちんと読んでいなかったので記述されていればすみません。

    私は筋肉量が増えるのも嬉しいですが、きちんとトレーニング出来たりすると、そのこと自体が嬉しいタイプなので例えデカくなれなくてもそれほど気にはならないです。
    なので、筋肉量に影響を与える遺伝子より、しっかりと追い込めるメンタルに影響を与える遺伝子が欲しいです。笑

    1. ふーじーさん、コメントありがとうございます。

      >食生活や睡眠時間などの条件が全て同一だったのでしょうか?
      記事内の研究3では食事のデータが取られています。他にも食事量の影響を考慮しようとした研究はありますが、睡眠も含めて完全に管理し切ることはできていないですね。

      筋肉の増え方には、ストレスなど他にも影響する要因は考えられますが、すべての条件を完全に揃えるのは現実的でないということですね。

      >きちんとトレーニング出来たりすると、そのこと自体が嬉しいタイプ
      ご自身のトレーニングの結果よりも過程を楽しむってとても価値のあることだと思います。

  3. ミスター日本の鈴木雅さんはトレーニング時に痛みに耐えられる強さが学生時代に運動部だった人にはあると言っていました。(鈴木さんは「閾値」と言う言葉を使ってましたが使い方に誤りがあります。)

    効かせるためのトレーニングであればの話ですが、耐痛性と言う点では確かに個人差があると思います。アドレナリンの作用なんかも関係しそうですが、どう思われますか?

    1. JJJさん、コメントありがとうございます。

      >耐痛性と言う点では確かに個人差があると思います。アドレナリンの作用なんかも関係しそうですが、どう思われますか?
      痛みをどれくらい感じるか、痛みにどれだけ耐えられるかというのは個人差が出る部分だと思います。

      痛みのメカニズムはとても複雑で、過去の経験、体質、痛みに対する考え方、生活環境といった無数の要因が関わってきます。筋トレの場合であれば、筋トレで達成したい目標も影響してくるかもしれません。
      過去の運動経験は無数にある要因のひとつに含まれることになりますが、これだけが決め手になるわけではありません。

      痛みのメカニズムについては、この記事の前半部分にまとめました。JJJさんのお役に立てるかもしれません。どうぞ、ご参照ください。

  4. 単純な勝ち負けよりも実際に価値あるものを追い求める事が大切だと感じました。それはトレーニングだけではなく人生における全ての領域でも言える本質です。自分の遺伝子に感謝しながら遺伝子の限界に挑戦しようと思います。

    1. 白熊さん、コメントありがとうございます。

      >単純な勝ち負けよりも実際に価値あるものを追い求める事が大切
      おっしゃるとおりだと思います。

      筋力トレーニングは特定の人のためにあるものではないので、他人より優れているから価値があるというよりも、どんなレベルであっても自分にとって価値があることが大切なのだと感じます。

      これは本当にいろんなことに通じることなのでしょうね。

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サイト管理人

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アンディ・モーガン

イギリス出身のダイエットコーチ兼パーソナルトレーナーです。日本に住んで12年。日本が大好きになりました。 欧米のダイエット情報と数百人の英語圏のクライアント指導で得た経験を日本に広めるためノウハウを公開しています。
AthleteBody.jp Kengo Yao 2015

八百 健吾

サイト内で紹介する外国人トレーナーなどの記事の日本語訳を担当しています。 アンディと本橋とチームで内容充実のサイト作りをしていきます。ご期待ください^^
Naoto Motohashi AthleteBody.jp 200×200

本橋 直人

科学的根拠に基づく指導をモットーとしてカナダで活動中のフィットネス指導者です。皆さまに役立つ情報を厳選して発信していきます!

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