神経系の適応を測るBIG3の挙上スキル計算機

投稿者 : 八百 健吾

挙上スキルスコア AthleteBody.jp挙上重量を伸ばしていくには、大きく分けて「筋肉量」と「神経系の適応」が重要になります。筋肉量が同じであれば、重たいバーベルを挙げるための身体の使い方がうまい方が大きな重量を挙げられるということです。今回は挙上重量を伸ばしていくのに、ご自身のトレーニングでどちらに力を入れて進めるのがいいかを考えるツールをご紹介します。

相対筋力のおさらい

シンプルに何kg挙げられるかを見る絶対重量という意味では、体格が大きい方が有利になります。しかし、人の身体の大きさはさまざまなので、自分の体格に対する挙上重量がどの程度なのかを考える方が、より現実的に自分の筋力レベルを知る助けになります。これが「相対重量」という考え方です。

相対筋力スコア

BIG3の前進を測る相対重量計算機の記事では、身長・体重に対する相対重量をスコアとして出す計算機を紹介しました。まだ読まれていない方は、今回の記事を読み進める前にチェックしてもらうと良いと思います。

相対筋力スコアを伸ばすには、3通りの進め方があります。

  • 体脂肪を落とす
    前回記事の相対筋力スコアは、男性で体脂肪12%を前提に計算されます。これより体脂肪が目立って多い場合、減量することで相対筋力スコアを伸ばすことができます。
  • 筋肉を増やす
    筋肉が増えれば大きな力を出せるようになり、挙上重量を伸ばすことにつながります。これは分かりやすいと思います。
  • 神経系の適応を改善する
    体脂肪や筋肉の量が同じ場合、身体の使い方や力の出し方がうまくなることで挙上重量を伸ばすことができます。これには伸ばしたい種目の練習が重要になります。

まずは、体脂肪から見ていきます。

体脂肪率の推定値を出す

残念ながら体脂肪率を正確に知る方法というのは存在しません。一般人にとって最も手軽な測定方法は市販の体組成計ですが、誤差が大きく参考になりません。体組成を測る研究で使われる高価な機器でもある程度の誤差が出てしまうものです。

それを踏まえて、以下の手順で体脂肪率の推定値を出すことができます。

  • ステップ1
    身長(cm)と体重(kg)を入力。
  • ステップ2
    首まわりとお腹まわりのサイズ(cm)を入力。
    (首まわりは一番細いところ、お腹まわりは力を抜いた状態でおへその位置を測定してください。)
  • ステップ3
    体脂肪率の推定値が自動計算されます。

今回の記事の計算機は男性のみに対応しています。女性リフターのみなさん、すみませんm(_ _)m

体脂肪率推定計算機


これはアメリカ海軍で開発された方法で、多くの場合で±3%程度の範囲で体脂肪率を推定できます。場合によってはそれ以上の誤差が出る可能性もあって完璧とは言えませんが、一般人に手軽に行えるものとしては当サイトで知る限り最も精度が高い方法です。

体脂肪レベルに応じた行動プラン

相対重量を伸ばしたい場合、体脂肪レベルによって進め方を分けることができます。

  • 体脂肪率がハッキリ高い場合
    上の計算機で体脂肪率がハッキリと高く出た場合、減量をすることで相対重量を伸ばすことができるはずです。この計算機にも誤差はあるので、推定体脂肪率15〜18%以上くらいを大まかな目安にすると良いかもしれません。挙上重量を維持しながら体脂肪を落とすことを目標にしましょう。
    減量を始めると、体重は落ちたものの挙上重量も落ちてしまったということが出てくるかもしれません。減量はある程度の期間は継続することが重要ですが、挙上重量が落ちたことで減量を続けるべきなのか不安になったときは、BIG3の前進を測る相対重量計算機でご自身の相対筋力スコアの変化をチェックしてみてください。絶対重量が多少落ちていても、相対重量としては伸びていることも少なくありません。
  • 体脂肪率が高くない場合
    上の計算機での推定体脂肪率が15〜18%を大きく上回っていない場合、相対重量を伸ばしていくには筋肉量を増やすか神経系の適応を伸ばすことが必要になります。

自分の神経系の適応レベルをチェックする

「神経系の適応」という言葉がピンと来ないという人もいるかもしれません。ここでは各トレーニング種目で身体をうまく動かしたり、自分の持っている筋肉をうまく使って全力を出す能力のことを言います。各トレーニング種目の習熟度のことで、挙上スキルと言い換えると分かりやすいかもしれません。

以下の手順で挙上スキルのレベルを見積もることができます。

  • ステップ1
    身長(cm)と上で計算した除脂肪体重(kg)を入力。
    ここで、身長と除脂肪体重に応じた理論上の推定1RMが表示されます。
  • ステップ2
    スクワット、ベンチプレス、デッドリフト、BIG3合計の自己ベスト1RM(kg)を入力。
    (BIG3合計を見るのがオススメですが、ご自身で興味のある種目のみ記入しても計算機は動きます。)
  • ステップ3
    神経系の適応レベルが各種目のスキルスコアとして自動計算されます。

スキルスコア推定計算機

スキルスコア=自己ベスト重量 ÷ 理論上のベスト重量

ここでは上で計算した除脂肪体重の推定値を入力しました。身長に対する除脂肪体重が大きい人は、筋肉も多く大きな重量を挙げることができるはずです。しかし、各トレーニング種目に不慣れであれば、筋肉量が多くてもそれほど大きな重量を挙げられないかもしれません。

この計算機では実際の自己ベスト1RMを、除脂肪体重から推定される理論上の1RMで割ってスキルスコアを算出しています。この計算で、いま自分の持っている筋肉をどれだけ効率的に使えているかを推し量ることができます。

スキルスコアの読み取り方

個別の種目よりもBIG3合計に注目

この計算機では個別の種目のスコアよりも、BIG3合計でのスコアに注目してください。

みなさんそれぞれに得意な種目や苦手な種目があると思います。各種目でどれだけの重量を挙げられるかには、筋肉量とスキルの他に、骨格の個人差が影響してきます。例えば、腕が長いとベンチプレスで大きな重量を挙げるのに不利に働きます。腕の長さはトレーニングで変えることができないので、ある程度の得意不得意があるのは自然なことです。

ただ、腕が長いとベンチプレスで不利に働くものの、デッドリフトには有利に働きます。つまり、骨格による影響は個別の種目よりもBIG3合計で見たときには小さくなるので、いまある筋肉をどれだけ効率的に使えているかを考えるのに参考にしやすくなります。

85〜115%が熟練の領域

各種目のスキルスコアは85%〜115%くらいの範囲を「概ね完璧」と捉えられます。30%と大きな幅があるのは各個人の得意不得意の表れと考えてください。競技のためにBIG3をやり込むパワーリフターでも選手によって得意種目に違いが出てくるものです。特定の種目でスキルスコアが100%を超えることも十分に考えられますし、苦手種目では90%くらいを目標にするのが現実的な場合も考えられます。

また、この計算機では全身の除脂肪体重を基に推定1RMを算出しています。つまり、全身にある程度バランスよく筋肉が付いていることが前提になります。例えば、ベンチプレスにこだわってトレーニングを行っていて筋肉量が上半身に集中しているような場合、ベンチプレスのスキルスコアだけ極端に高い数字が出る可能性があります。トレーニングの目的は人それぞれなので、これは必ずしも悪いことではありません。ただ、筋肉の付き方が偏っている場合、この計算機では筋肉量の影響と挙上スキルの影響を切り分けられなくなってしまう可能性があるということです。

こういった計算や分析を面倒に感じる人もいるかもしれませんが、挙上重量を伸ばしたい場合、挙上スキルのレベルによって効果的なトレーニングの進め方が変わってくる可能性があります。ここからはスキルスコアに合わせた行動プランを紹介していきます。

挙上練習:スキルスコアが80%以下の場合

パワーリフターに学ぶ

パワーリフターには一般トレーニーの基準からは考えられないような高重量を挙げる選手が多くいますが、これは挙上スキルが非常に高いことが大きく影響しています。BIG3合計のスキルスコアが80%以下で、挙上重量を伸ばしたい場合、スキルスコアの低いトレーニング種目の練習をするのが効果的です。

基本的なフォームを押さえた上で、細かな身体の使い方や力の入れ方を練習することでスキルが上がり、自分の持っている筋肉の全力を出せるようになっていきます。パワーリフティングやウェイトリフティングの世界では、スキルを伸ばすことを目的に「比較的高強度で週4回以上」というような高頻度のプログラムが使われます。

高頻度プログラムについて行われた研究は少なく、現時点で科学的に十分に効果が確認されているとは言えないようですが、実際に高頻度プログラムで素晴らしい結果を出しているコーチや選手は多く、リフターの世界から学べることがたくさんあると考えられます。

高頻度プログラムサンプル

高頻度プログラムにはいろいろな組み立て方がありますが、シンプルなサンプルをひとつ紹介します。この相対筋力シリーズの制作に協力してくれているパワーリフターのGreg Nuckolsが、自身の行うトレーニング指導の中で3年ほど使い続けているプログラムで、スキルスコアの低かったリフターが良い成果を出しています。

週5回を基本に、3週間を1サイクルとして行います。

高頻度プログラム 1週目
トレ日重量設定挙上回数
1日目1RMの75%3回 × 4セット
2日目1RMの80%2回 × 3セット
3日目1RMの70%4回 × 4セット
4日目1RMの85%1回 × 3セット
5日目1RMの65%5回 × 5セット

2週目には各日1セットずつ増やします。

高頻度プログラム 2週目
トレ日重量設定挙上回数
1日目1RMの75%3回 × 5セット
2日目1RMの80%2回 × 4セット
3日目1RMの70%4回 × 5セット
4日目1RMの85%1回 × 4セット
5日目1RMの65%5回 × 6セット

3週目には各日に1レップずつ増やします。

高頻度プログラム 3週目
トレ日重量設定挙上回数
1日目1RMの75%4回 × 5セット
2日目1RMの80%3回 × 4セット
3日目1RMの70%5回 × 5セット
4日目1RMの85%限界 × 1セット

3週目は週4回とし、4日目には1RMの85%の重量で限界までの回数を1セットだけ行います。

  • 重量の増やし方
    3週目の4日目のセットで挙げられた回数によって、次のサイクルの重量を調整します。
    6〜7回挙げられた場合には2.5kg、8〜9回挙げられた場合には5kg、10回以上挙げられた場合には7.5kgを目安に重量を増やして次のサイクルの1週目に入ります。
    (絶対重量が小さい場合には増やし幅を適宜調整してください。)
  • 週5回トレーニングできない場合
    週4回しかトレーニングできない場合は、5日目(65%の日)を省略して行いましょう。
    週3回しかトレーニングできない場合には、さらに3日目(70%の日)を省略して行いましょう。

プログラム実施上の注意点

このサンプルプログラムで効果をあげるための注意点をいくつか挙げておきます。

  • 絶対にフォームを乱さない
    このプログラムでは、バーベルを挙げるのを「筋肉を追い込むためのトレーニング」ではなく「挙上がうまくなるための練習」と捉えます。
    その目的に合わせて、上記の重量と回数の組み合わせはフォームを保てなくなるギリギリまで追い込むことがないように考えられています。毎レップ挙上動作がブレないように行うことが重要です。
  • 毎レップ全力で挙げる
    このプログラムはギリギリまで追い込まない設定になっていますが、余裕を持って挙げられる重量では挙上動作が流れ作業になり、目標回数をこなすのに必要な分だけの力を出す形になってしまいがちです。しかし、毎レップ全力を出して爆発的に挙げることで神経系の適応を促し、筋肉をうまく動員できるようになり、挙上重量の伸び幅を大きくすることにつながります。余裕のある重量でも1RMテストのような気持ちで臨みましょう。
  • セットごとに課題を持って集中する
    自分のフォームについて各セットで注意点を決め、そこに集中しましょう。例えば、手幅や足幅だったり、身体の特定の部位の動かし方だったり、バーベルの軌道だったり、「スクワットで地面を足で押し下げる」や「ベンチプレスでバーベルを天井に向けて突き上げる」という意識付けだったりと試せることはたくさんあります。セット後にはその手応えを振り返り、改善の余地があるか、次のセットで意識する点があるか考えましょう。
    トレーニングのビデオ撮影ができると、セット後に自分の動作を振り返る作業がスムーズになるかもしれません。
  • 疲労の蓄積に注意しながら休みを取る
    いつ休みを取るかは、お仕事などのスケジュールとの相談になるかと思いますが、特に高頻度プログラムを始めて間もない頃には疲労の蓄積に注意が必要です。できるだけトレーニング日が連続し過ぎないように調整しましょう。
    このプログラムの重量・回数設定では、疲労が溜まっていても「挙げられてしまう」という側面があります。余裕があるはずの重量でも疲労が蓄積すると怪我や痛みにつながる心配もゼロではありません。
    高頻度プログラムを続けるにつれて身体が適応してこなせる頻度が上がってくると考えられますが、例えば、1週目の後半と2週目の前半をつなげて10日連続というようなスケジュールは避けた方が良いでしょう。

上記の注意点を押さえて良いトレーニングができれば、数ヶ月という比較的短いスパンで挙上スキルが伸び、挙上重量を大きく伸ばせる可能性があります。定期的にこの計算機でスキルスコアの変化を確認しておくと、どの程度の期間続けるかのヒントになるかもしれません。

このプログラムが向かない場面

このプログラムは各トレーニング種目のスキルを上げて、いまある筋肉量で挙げられる重量を伸ばすという目的を前提に考えられています。次のような場合には、他のプログラムの方が適していると考えられます。

  • トレーニングを始めて間もない場合
    このプログラムは基本的なフォームを十分に習得していることが前提なので対象外になります。トレーニングを始めてすぐの頃は大多数の場合で、もっとシンプルなプログラムで筋力も筋肉量も伸ばしていくことができます。
  • 挙上重量に強くこだわらず、全般的に体力を向上したい場合
    大きな重量を挙げることに強くこだわりがなく、全般的に筋力や筋肉量をある程度まで伸ばしたい趣味トレーニーやバーベル競技以外のアスリートには必要ないかもしれません。
  • 筋肥大を最優先にしたい場合
    挙上重量よりも筋肥大を優先したい場合、全体でのトレーニング量が重要になります。大きな重量が挙げられるとメリットにはなりますが、軽い重量でも筋肥大は起きるので必須ではありません。

こうやって見ると同一種目を高頻度で行うプログラムを使う場面は限られていることが分かるかと思います。種目選びや重量・回数設定を工夫すれば、さまざまな状況に対応することはできるはずですが、トレーニング頻度に無理がなく続けやすいプログラムの方が良い場面は多く考えられます。

高頻度プログラムに関するオススメ情報

高頻度プログラムは上に紹介したサンプルプログラム以外にもいろいろな組み立て方が考えられます。ただ、現時点では高頻度プログラムをどう組み立てれば良いかを考えるのに直接的なヒントになる科学的知見は十分にありません。そこで、経験豊富なコーチや選手の実践内容が参考になります。もう少し詳しく知りたい方向けにいくつか情報ソースを紹介しておきます。

  • エブリベンチプレス導入編(ブログ記事)
    ベンチプレッサーの鈴木佑輔選手が、高頻度で行うベンチプレスについて書かれたブログ記事です。概要をさっと読むことができます。
  • ベンチプレス基礎から実践(書籍)
    ベンチプレッサーの東坂康司選手が著者で、児玉大紀選手が監修されている書籍。高頻度で行うベンチプレスについて、目的やレベルに合わせた高頻度プログラムの組み立て方が非常に詳しく解説されています。豊富な経験に基づいたノウハウは世界的にも貴重なもののはずで、それが日本語で読める価値は大きいです。
  • Bulgarian Manual(英語電子書籍)
    パワーリフターのGreg Nuckolsが高頻度プログラムの背景にある考え方、数は少ないものの参考になる研究、実際のプログラムの組み立て方、実践面でのヒントなどをまとめています。高頻度プログラムに興味があって英語が大丈夫な方には役立つ情報が詰まっています。
  • Squat Every Day(英語電子書籍)
    Matt Perrymanというアメリカ人トレーニーの著書です。高頻度プログラムの歴史、科学的知見の有効な使い方やその限界、精神と身体のつながりやそれがストレスや疲労に与え得る影響など、さまざまな視点から筋力トレーニングや高頻度プログラムをどう捉えるべきかを語っています。

書籍に関してはAmazonなどの販売ページにリンクしています。アフィリエイトリンクではないので、ご購入になってもAthleteBody.jpには一銭も入りません。

ここまでは、スキルスコアが80%以下の場合の伸ばし方についてでした。

筋肥大:スキルスコアが80%以上の場合

スキルスコアが80%を超えるような場合、いまある筋肉を効率的に使って重たいバーベルを挙げることができているはずです。そのスキルを維持したり、さらに向上させるために挙上練習は有効ですが、スキルの伸び代という意味では小さくなってきます。スキルスコアが高くなるほど、そこからさらに挙上重量を伸ばしていくには、筋肉量を増やすことが必要になります。

この記事は筋肥大のためのトレーニングがテーマではないので詳細は割愛しますが、上に書いたようにトレーニング量が重要になります。それに加えて、筋肉を増やすのに必要なカロリーとたんぱく質の摂取量が確保できていることも重要です。

筋肥大のためのプログラム作りについて、もっと知りたいという方は、eBook「肉体改造のピラミッド 〜トレーニング編〜」が参考になるかもしれません。2015年の公開以降、新たに発表されている研究もありますが、全体としていまも胸を張って提供できる情報が詰まっています。このページ末尾のフォームから無料でダウンロード可能です。

今回はここまで

今回は体脂肪率と除脂肪体重を推定できる計算機と、現在の筋肉をどれだけ効率的に使えているかを推定できる計算機を紹介しました。どちらの計算機も、絶対的な精度を持ってドンピシャの数字を出せるものではありませんが、大きく外さない範囲で現状を数値化することはできるはずです。

前回の相対筋力スコアと同様に、すべての人がスキルスコア100%を目指す必要はまったくありません。挙上重量を伸ばすのが目標の場合、自分に足りない部分を知ることで挙上練習を中心に行うのが良いのか、筋肥大を狙うのが良いのかを考えるヒントとして活用してもらえれば嬉しいです。

次回は、このシリーズの最終回として、筋肥大の個人差についてお話しします。

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八百 健吾

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