糖質制限でインスリンをコントロールするという迷信

投稿者 : James Krieger

AthleteBody.jp 炭水化物とインスリンインスリンはあわれにも、できるだけ分泌を避けるべきホルモンとして悪者にされてしまっていますが、本来そういう扱いを受けるべきホルモンではありません。

この記事のリンク先はすべて英語です。

インスリンとは?

インスリンは血液中の糖分のレベルを調整するホルモンです。私たちは食事をすると、食べ物から摂った炭水化物は、細胞でエネルギーとして使えるようブドウ糖という形に分解されます。
ブドウ糖が血液に入って血糖値が上がると、すい臓がそれを感知してインスリンを分泌します。インスリンは肝臓、筋肉、脂肪細胞がブドウ糖を取り込むのを助ける役割をします。血糖値が下がってくるとインスリンの分泌量も下がっていきます。このように、食事をすると血糖値が上がり、インスリンが分泌され、血糖値が下がるとインスリンの分泌量も下がるというサイクルは1日を通して起こっています。
朝起きてすぐは、最後の食事から少なくとも8時間程度は経過していることが多いので、たいていインスリンの量は1日で最も低くなります。

インスリンには血糖値を調整する以外にも働きがあり、筋肉でたんぱく質が作られるのを促進したり、脂肪の分解を抑制したり、脂肪の合成を促進したりします。
そして、この脂肪への働きが注目されてインスリンは悪者にされてしまいました。私たちの身体は炭水化物を摂るとインスリンを分泌するので、炭水化物をたくさん摂ると体脂肪が増えると考えたのです。こう考える人たちの理屈は次のようになります。

炭水化物の多い食事を摂る ▷ インスリンの分泌量が上がる ▷ 脂肪の分解が抑制され、脂肪の合成が促進される ▷ 体脂肪が増える ▷ 肥満

また、同じ理屈を使って、炭水化物を減らすとインスリンの分泌量が抑えられるので、体脂肪を落とすには炭水化物を制限するのが一番だと言います。

炭水化物の少ない食事を摂る ▷ インスリンの分泌量が下がる ▷ 脂肪の分解が促進され、脂肪の合成が抑制される ▷ 体脂肪が減る

しかし、この考え方はいくつもの誤解の上に成り立っています。インスリンを取り巻く迷信がたくさんあるので、ひとつずつ見ていきたいと思います。

迷信:炭水化物を多く摂るとインスリンの高い状態が続く

事実:インスリンの分泌量が増えるのは食後の時間だけ

炭水化物の多い食事に関する誤解のひとつに、インスリンの高い状態が続き、絶えず脂肪の合成が分解よりも盛んに行われ、体脂肪が増えてしまうという考えがあります。(体脂肪が増えるのは、脂肪の合成される量が分解される量を超えた場合に起こります。)
しかし、健康な人の体内でインスリンの分泌量が上がるのは、食事を摂ったときに限られます。つまり、脂肪の合成が分解よりも盛んになるのは食後の数時間に限られるということです。眠っているときや、食事の間隔が広く開いたときには脂肪の分解が合成よりも盛んに進みます。そして、1日全体で考えると、カロリー収支が釣り合っていれば、プラスマイナスゼロになり、体重は増えません。

図1 1日のインスリン分泌による脂肪合成の推移イメージ AthleteBody.jp

このグラフはイメージをつかむための例でしかありませんが、緑の部分の面積が食後に脂肪が合成された量を示し、青い部分の面積は食事を摂っていない時間に脂肪が分解された量を示しています。カロリー収支が釣り合っていれば、1日全体で見ると、緑と青の面積は同じになります。そして、これは炭水化物をたんさん摂っていても変わりません。
実際に沖縄の伝統的な食生活ではたくさん炭水化物を摂りますが、肥満が問題になっていたわけではありません。炭水化物の多い食事でもカロリー収支がマイナスになっていれば、他のダイエットとまったく同じように体重が落ちます。

迷信:炭水化物を摂るとインスリンが分泌され体脂肪が増える

事実:インスリンはなくとも体脂肪は増える

インスリンに関する大きな誤解のひとつが、身体が体脂肪を蓄積するにはインスリンが必要だという考えです。インスリンの分泌量が少なくとも、私たちの身体には体脂肪を蓄積するメカニズムが備わっています。
例えば、脂肪細胞にはホルモン感受性リパーゼと呼ばれる酵素があり、脂肪の分解を促す働きをしています。インスリンはホルモン感受性リパーゼの働きを抑え、脂肪の分解を抑制します。このことから、炭水化物が脂肪を増やす原因になると考える人がいます。

しかし、実際にはインスリンの量が少ないときにも、脂肪もホルモン感受性リパーゼの働きを抑制します。つまり、炭水化物の摂取量が少なかったとしても、カロリーを摂り過ぎていれば体脂肪を落とすことはできないということです。
例えば、脂肪で5000kcal摂るようなことをした場合、体内のインスリンの量は上がりませんが体脂肪は落とせません。この場合は、脂肪がホルモン感受性リパーゼの働きを抑えるからです。これは、もし低炭水化物ダイエットを実践していたとしても、体重や体脂肪を落としたければカロリー収支をマイナスにしなければならないということでもあります。

迷信:インスリンが空腹感につながる

事実:インスリンは空腹感を抑える

インスリンが分泌されると短期的に空腹感を抑えることは、これまでにいくつもの研究で示されています。このことは次の迷信を考えるのに大切になってきます。

迷信:炭水化物でのみインスリンが分泌される

事実:たんぱく質でもインスリンはガッツリ分泌される

一般的なインスリンに対する誤解の中で、これがおそらく一番大きいでしょう。炭水化物が悪者にされるのはインスリンの分泌を促すからですが、たんぱく質を摂ってもインスリンは分泌されます。実際、たんぱく質でも炭水化物と変わらないくらいインスリンが分泌されることもあります。
最近の研究で、2種類の食事メニューを使ってインスリンへの影響が比べられました。1種類はたんぱく質21gに炭水化物が125g、もう1種類はたんぱく質75gに炭水化物75g、両方とも全体で675kcalという内容でした。インスリンの分泌量は下のグラフのようになりました。

図2 食後のインスリン分泌量 AthleteBody.jp

さらに血糖値のグラフです。

図3 食後の血糖値の変化量 AthleteBody.jp

炭水化物の多いメニューの方が血糖値はずっと大きく上がりましたが、インスリンの分泌量は大きくなりませんでした。それどころか、インスリンの分泌量はたんぱく質の多いメニューの方が少し大きくなりました。(これは統計的に有意な差ではありませんが。)

「炭水化物が75gあれば低炭水化物とは言えない」と考える人もいるかもしれませんが、重要なのはそこではありません。ここで重要なのは、炭水化物の多いメニューは、2倍近い炭水化物を摂っていて、血糖値も大きく上がっていたにもかかわらず、インスリンの分泌はたんぱく質の多いメニューよりも少なかったということです。この研究に使われたたんぱく質と炭水化物は、同じくらいインスリンの分泌を促す力があったということです。

「たしかに、たんぱく質でもインスリンは分泌されるけど、長時間にわたってゆっくり分泌されるものだ」という声も聞こえてきそうですが、これも今回の研究にはあてはまりません。

図4 プロテインシェイク後のインスリン分泌量 AthleteBody.jp

このグラフから、たんぱく質の多い食事の方がインスリンの分泌が早く最大値に到達しているのが分かります。食後20分の時点でたんぱく質の多いメニューでは45uU/mLなのに対して、炭水化物の多いメニューではおよそ30uU/mLになっています。
また、このインスリンの分泌量が大きくなったことは、食欲の抑制と関連性が見られました。たんぱく質の多いメニューを食べた後は満腹感が大きくなり、空腹感が抑えられたのです。

図5 プロテインシェイク後の空腹感と満腹感 AthleteBody.jp

もうひとつ4種類のたんぱく質を比べて、インスリンの分泌への影響を調べた研究を紹介します。この研究では、種類の異なるたんぱく質からプロテインシェイクが作られました。(まぐろシェイクって…ぐぇ。)この研究で使われたプロテインシェイクは、炭水化物11gとたんぱく質51gという内容で、インスリンの分泌量は以下のようになりました。

図6 プロテインシェイク後のインスリン分泌量 AthleteBody.jp

この研究で使われたプロテインシェイクに含まれる炭水化物は少なかったにもかかわらず、すべてのたんぱく質でインスリンが分泌されたことが分かります。また、たんぱく質の種類によっても違いがあり、ホエイたんぱくで最もインスリンが分泌されました。

ここで、インスリン分泌は糖新生(肝臓でたんぱく質がブドウ糖に変換されること)によるものだと考える人もいるかもしれません。プロテインシェイクに含まれるたんぱく質がブドウ糖に変換され、そのブドウ糖がインスリン分泌を促すという考えです。
肝臓がたんぱく質をブドウ糖に変換するのには時間が掛かります。このことから、上に書いたように、たんぱく質に対するインスリンの分泌は時間を掛けてゆっくり起こると考える人がいます。しかし、この研究ではインスリン分泌量は30分以内にピークに達し、食後60分の時点では大きく下がるという急激な変化になりました。

図7 プロテインシェイク後のインスリン分泌 AthleteBody.jp

この急激なインスリン分泌は血糖値の変化によるものではありません。実際、インスリンが最も多く分泌されたホエイたんぱくでは、血糖値が下がりました。

図8 プロテインシェイク後の血糖値 AthleteBody.jp

また、インスリンの分泌量は満腹感と関連が見られました。実際、インスリンが最も多く分泌されたホエイたんぱくで最も食欲が抑えられました。この研究では、プロテインシェイクを摂った4時間後にバイキング形式の昼食がありましたが、被験者たちのカロリー摂取量は下のグラフのようになりました。

図9 プロテインシェイク後のカロリー摂取量 AthleteBody.jp

インスリンが最も多く分泌されたホエイたんぱくを摂った被験者は、昼食での食事量が150kcal近く低くなりました。インスリンの分泌量と食事量の間には非常に強い逆相関が見られました。

さらに、もうひとつ別の研究データを紹介します。この研究では、たんぱく質102g、炭水化物18g、脂肪はほぼゼロ、全体で485kcalの食事に対するインスリン分泌量が調べられました。

図10 高たんぱく質・低炭水化物の食事に対するインスリン分泌量の推移 AthleteBody.jp

肥満の被験者ではインスリン分泌量が大きくなっています。これはインスリン抵抗性によるものだと考えられます。さらに下のグラフは被験者の血糖値の変化を表しています。インスリンの分泌のされ方と血糖値には関連性がなかったことが分かります。これは上に紹介した研究結果にも通じることです。

図11 高たんぱく質・低炭水化物の食事に対する血糖値の推移 AthleteBody.jp

つまり、たんぱく質はインスリン分泌を促す強力な因子であり、たんぱく質を摂ってインスリンが分泌されるのは血糖値や糖新生とは関係がないということです。
実際、牛肉は玄米と同じだけインスリンを分泌させるという研究があります。38種類の食べ物に対する血糖値とインスリンの分泌量が調べられましたが、血糖値の変化でインスリン分泌量の変化の説明がついたのは全体の23%でしかありませんでした。つまり、炭水化物だけがインスリンの分泌量を決めるのではなく、実際はもっと複雑なのだということです。

では、ホエイたんぱくを使った研究で見られたように、たんぱく質がインスリン分泌量を急激に高めるのはどういうことなのでしょう?
たんぱく質を構成するアミノ酸は、肝臓でブドウ糖に変換されなくても、直接すい臓にインスリンを作るように働きかけます。例えば、ロイシンというアミノ酸は、すい臓に直接働きかけてインスリンを分泌させ、ロイシンをたくさん摂るほどたくさんインスリンが分泌されます。

この記事を読んでいる人の中には、「たしかに、たんぱく質でもインスリンは分泌されるけど、グルカゴンも一緒に分泌されてインスリンの効果を打ち消すから、たんぱく質でインスリンが分泌されても脂肪燃焼が止まるわけではない」と考える人もいるかもしれません。

「グルカゴンが脂肪分解を促す」という考え方には3つの要素があります。ヒトの脂肪組織にはグルカゴン受容体があること、動物ではグルカゴンが脂肪分解を促すこと、そして、ヒトの細胞を使った生体外実験でもグルカゴンは脂肪分解を促すことです。
しかし、生体外で起きることが生体内でも同じように起きるとは限りません。新しい技術を使った研究で、ヒトの体内ではグルカゴンは脂肪分解を促進しないことが示されました。新しいデータによって、古い考え方が否定されたわけです。同じ技術を使った他の研究でもよく似た結果が出ています。またこの研究では、生体外でも脂肪分解を促進する効果は認められませんでした。

あたらめて、なぜたんぱく質を摂るとグルカゴンが分泌されるのかを考えてみましょう。たんぱく質はインスリンの分泌を促すので、炭水化物を一緒に摂らなければ、血糖値が急激に下がることになります。そこで、グルカゴンは肝臓にブドウ糖を作るように働きかけ、血糖値が急激に下がるのを防ぐ役割を果たしているのです。

インスリンは悪者ではない

インスリンは体脂肪を増やす悪玉ホルモンで、できるだけ分泌を抑えないといけないというものではありません。食欲や血糖値のコントロールに重要な役割を果たすホルモンです。
実際、もしも本当にインスリン分泌をできるだけ抑える食事を摂るとするなら、高たんぱく質の食事はダメということになります。低たんぱく質、低炭水化物、高脂肪の食事を摂るということになりますが、そういうダイエットを勧めている人はまったく見かけません。

この記事を読みながら、頭がねじれるような思いをしている人がいるのではないかと思います。私は、この論文で「たんぱく質で大きなインスリン分泌があった」というのを初めて目にしたときに同じような思いを経験したので、気持ちは分かります。
当時、私は他の人たちと同じように、インスリンはできるだけ低く維持されるべきで、急激に分泌量が増えるのは良くないことだと考えていました。自分のインスリンに対する理解と、この論文の内容が食い違っていて混乱しました。しかし、時間を掛けてもっと多くの研究結果に目を通していく内に、単純に自分のインスリンに対する理解が間違っていたのだということに気付きました。

さて、ここまで読んで、ではなぜ精製された糖質が問題になりうるのか不思議に感じる人がいるかもしれません。多くの人は急激にインスリンの分泌量が増えるからだと言います。しかし、たんぱく質でもインスリンの急激な分泌は起こるので、明らかにインスリンが問題ではありません。
精製された糖質の問題のひとつは、エネルギー密度が高くなりやすいことです。小さなパッケージにカンタンに高カロリーを凝縮することができてしまいます。さらに、エネルギー密度の高い食品は、エネルギー密度の低い食品に比べて、満腹感が得にくいことも問題です。特に炭水化物の含有量の多い食品では、どれだけ満腹感を得られるかの指標としてエネルギー密度が非常に有効です。(エネルギー密度の低い食品ほど腹持ちが良いということ。)
精製された糖質に関しては他にも問題がありますが、この記事の趣旨から離れるので、ここまでにします。

重要なのは、インスリンは悪玉ホルモンではないということです。インスリンはたんぱく質が空腹感を抑えるメカニズムのひとつであり、低炭水化物・高たんぱく質の食事でも急激なインスリン分泌は起こります。インスリンの分泌に頭を悩ませるよりも、満腹感や継続性の観点から、どんな食生活が自分に一番合うかを考えましょう。

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James Krieger

ジェイムス・クリーガーは栄養学と運動科学の修士号を持ち、自身のウェブサイトWeightology.netで情報発信をしています。
年間400人以上が参加する体重管理プログラムの監督を務めるなど、豊富なダイエット指導経験を持っています。
またエビデンスに基づいた健康へのアプローチを重要視しており、栄養・体重管理に関する研究が有名科学誌に掲載されています。

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