たんぱく質の吸収に限度はあるか?

投稿者 : Alan Aragon

リーンゲインズ たんぱく質の吸収 限界「1回の食事で摂るたんぱく質の内、身体が実際に使える量は限られている」という考え方がフィットネスの世界では長く語られています。
20〜30グラムぐらいが限度で、余分なたんぱく質は、酸化されるか(燃焼されるか)排泄されてしまうということです。30グラムを限度とするのが一番多いでしょう。
トレーニングをしている人の多くがこの話を信じて、苦労してたんぱく質を一日に何度にも分けて摂るようになりました。それを積み重ねる事で筋肉の同化を促したり、筋量維持を狙おうというワケですね。

もうひとつフィットネスの世界でよく言われるのが「身体の代謝を高めるためには1日に少なくとも6食は摂らないといけない」という考え方です。たんぱく質の吸収限度の話がウソかホントかは別にして、この2つの考え方は非常にうまく噛み合います。
すでに食事回数と代謝の関係は完全にくつがえされたので、今度はたんぱく質の吸収に関して掘り下げてみたいと思います。本当に吸収量に限度があるのか?もしそうなら、どれくらいが限度なのか?

カンタンな対比

比較的体脂肪の少ない体重90キロの男性ふたりを比較する実験を考えてみたいと思います。スポーツをしている人の必要量に足りると考えられるだけのたんぱく質を摂ってもらいますが、片方の男性Aには150グラムのたんぱく質を5回の食事に分けて摂ってもらいます。一方の男性Bには同じ量のたんぱく質を1回の食事で摂ってもらいます。
もし、ヒトの身体が本当に30グラムづつしかたんぱく質を吸収できないとすれば、男性Bが使えるのは150グラムの内30グラムのみ、体重1キロあたり0.33グラムということになります。これは「体重1キロあたり0.8グラム」という、もともと低い推奨摂取量の半分にも足りません。これでは、いずれたんぱく質不足に陥るでしょう。
もし、ヒトの身体がこんな風に機能していたら、人類はすぐに絶滅していたでしょう。ヒトの身体は実際もっと効率的にできているのです。

身体は摂取した量に応じて時間を掛けて消化・吸収します。男性Aは食事サイズが小さいので、男性Bと比べて1回の食事ごとに掛かる消化時間は短くなります。逆に男性Bは大量のたんぱく質を消化・吸収するのに長く時間が掛かります。

この理屈は、もうこれだけで納得できてしまいそうな話ですが、大切なのはこれを裏付ける科学的な研究結果があるかどうかです。短期的な研究結果と長期にわたるものを見比べてみましょう。

吸収のスピードの研究

ビルスボローとマンという人が、いろいろな研究者から数多くのたんぱく質の吸収速度のデータを集めたレビューがあります。
おもしろい事に、それによると豚のヒレ肉を模したアミノ酸の組み合わせが10グラム/時間で一番速く、次いでホエイが8〜10グラム/時間だったということです。結果に対してしっかりした根拠があるわけではありませんが、他のたんぱく質も上位2種類に続いてそれぞれランキングされました。
ちなみに、もっとも吸収が遅いのは生卵のたんぱく質だったということです。
ただ、これらデータには大きな制約があることに注意が必要です。
特に重要な点として、吸収速度を測るのに使われた方法がバラバラだということが挙げられます。(静脈注射や経口摂取など)ほとんどの計測方法が、データを真剣に検証するにはイイ加減だったり、こじつけだったりしています。
もうひとつ制約として挙げられるのが、実験に使われた溶液の濃度によって胃を通過する速度は変化することです。さらに、運動と摂取のタイミングによっても吸収速度は変わる可能性があります。
そして、短期的なデータでは疑問の余地が大きく残るということが言えます。

たんぱく質の吸収限度を示す短期間の研究

1回の食事で得られるアナボリック効果は、最大でたんぱく質20グラムまでに限られる」という話をよく聞きます。ここではムーア氏のチームによる最近の研究が引用される事が多いです。これは、運動後の4時間の枠の中で40グラムのたんぱく質を摂っても、20グラムのたんぱく質より大きなアナボリック反応が出なかったとするものですが、この結果の解釈には注意が必要です。
まず基本的な事ですが、たんぱく質の使用量は筋肉量によって変わります。体重60キロの人と90キロの人ではかなり違いが出ます。
さらに、トレーニングの全体量が比較的少なかった(12セット)ことも挙げられます。一般的なトレーニングでは複数の筋肉群を使い、少なくとも2倍のボリュームにはなります。それによって栄養素の必要量が上がる可能性が考えられます。
そして、この研究チームの出した次の結論は疑問です。

「この量のたんぱく質(〜20グラム)を毎日5〜6回まで摂れば、筋たんぱく質の合成が最大限に促進されると考える。」

つまり、この研究チームは「一日100〜120グラムのたんぱく質が筋肉の成長を促す最大量だ」と言っているワケです。多くの研究結果や現場での観察(ジムやスポーツ現場)から考えて、これは単純にまちがいです。

もうひとつ最近の研究結果を紹介します。シモンズ氏のチームが、たんぱく質をそれぞれ30グラムと90グラム含む牛肉を食べた後5時間の反応を比較しました。量の小さな牛肉の方ではたんぱく質合成が約50%上がったのに対し、もう一方は3倍量にも関わらず、それ以上の変化は見られなかったとしています。
この研究チームは「1回の食事で30グラム以上のたんぱく質を摂っても筋たんぱく質合成は増進されない」と結論づけました。
たしかに、彼らの結論はこの短期研究の結果に基づいていますが、長期間にわたって30グラムと90グラムのたんぱく質を摂った場合の筋量と筋力のちがいは想像に難くありません。(もちろん並行してしっかりした運動プログラムを行った場合です。)
これは、短期的な研究で得られる結果は仮説を立てる材料にしかならないという非常に重要な点を示す良い例です。無意味ではありませんが、長期的な結果を考え合わせずに結論は出せないということです。

たんぱく質の吸収限度を否定する長期研究

もし、20〜30グラムのたんぱく質が最大限のアナボリック効果を産むとすれば、それ以上のたんぱく質は無駄になることになります。しかし、ヒトの身体はもっと効率的に機能しています。
アルナル氏のチームは14日間の研究で、1日のたんぱく質必要量の79%(54グラム)を1回の食事で摂った場合と、4回に分けて摂った場合を比較して、除脂肪体重と窒素保有量に違いが出なかったとしています。
この研究で特に注目したいのは、被験者になったのは若い成人女性で除脂肪体重の平均は40.8キロだったということです。一般的な男性の除脂肪体重は(デスクワークしかしない人は例外として)これよりかなり高くなりますので、1回の食事でもっと多くのたんぱく質を摂っても、アナボリック効果や抗カタボリック効果が期待できると考えられます。
この研究で使われたたんぱく質量(除脂肪体重1キロあたり1.67グラム)を、一般的な体形の男性に当てはめて考えてみると、筋肉量の個人差にもよりますが、おおよそ85グラム〜95グラムくらいになります。

アルナル氏のチームは、同じ手法を使って年配の被験者を対象にした研究も行っていますが、たんぱく質を1回にたくさん摂った方が何回にも分けた場合よりも筋量維持に良い結果が出ています。
これを見ると、年齢を重ねると若い頃と同じだけの筋たんぱく維持をするには、比較的たんぱく質量の多い食事を摂ることが必要だという可能性を示唆しています。

断食ダイエットの研究が決め手になる?

1回の摂取限度とされる量を超えてもアナボリック効果はある」ということを示すもっとも力強い事例は、最近のインターミッテント・ファースティングに関する研究でしょう。特に一般的な食事の摂り方をしたグループとの比較をした実験は有効です。
ソーターズ氏のチームは2週間にわたって、一般的な食事サイクルと1日20時間の断食をするインターミッテント・ファースティングの違いを検証しました。断食をしたグループは4時間の間に平均101グラムのたんぱく質を摂りましたが、他のグループとの間で除脂肪体重や筋たんぱくにまったく違いは出ませんでした。

他のケースでは、ストート氏のチームが8週間のインターミッテント・ファースティングの観察を行っています。1日1食のみで86グラムのたんぱく質を摂るという内容で、除脂肪体重の増加も含めて体形の改善が見られたとしています。
おもしろいことに、この研究で一般的な食事サイクルを採ったグループでは体形改善は見られなかったということです。
この研究では生体インピーダンス法で体形変化を測定しており、研究結果がどの程度正確なのか注意が必要ですが、たんぱく質の摂取量の限度を否定する証として無視はできないでしょう。

結論と実践について

これまでに出された研究結果を踏まえると、身体が1回の食事では決まった量のたんぱく質しか体内で使われないと考えるのは誤りだと言えます。
たしかに短期の研究では、アナボリック効果を最大にするのに適した摂取量があるかも知れないというヒントが得られました。
しかし、長期にわたって行われた研究は、その考え方を裏付ける結果にはなりませんでした。
おそらく、1回の食事から身体が使えるたんぱく質量に限度はありますが、それはむしろ丸一日で使われる量に近いでしょう。一日で使われるたんぱく質の最大量は、20〜30グラムよりずっと多いです。実際にはいろいろな要素が関係しますが、一般人で十分なカロリー量を摂っていれば、体重1キロあたり2グラムからそう遠くない値でしょう。
実践においては、目標体重の1/4のたんぱく質をトレーニング前後に摂るのが効果的だと私は感じています。除脂肪体重の代わりに目標体重を使っているのは、肥満や非常にヤセ型の体形の場合に計算がおかしくならないようにするためです。この設定では、最大のアナボリック効果が出るたんぱく質量を超えていますが、一日の他の食事で摂るたんぱく質量に弊害は出ません。あとは好みで決めて大丈夫です。
トレーニングをしない日には、自分の好みやお腹の具合に合わせてたんぱく質の摂り方を決めれば良いでしょう。
カッコいい身体づくりをするのに、こういう自由で柔軟な設定方法はこれまであまり一般的ではなかったと思いますが、そろそろ考え方をシフトするタイミングということかも知れません。

まとめると、短期の研究結果や、ジムで都市伝説のように語られる話には注意しましょう。「たんぱく質は1日を通して少しずつ摂らないと効果的に使われない」というのは誤解です。
今後、たんぱく質の摂り方や種類を変えることで、筋力や筋量にどういった影響がでるのかを明らかにする研究が進むことを期待したいと思いますが、少なくとも大きなステーキを丸ごと食べてプロテインシェイクを飲むというような食事をしても大丈夫です。

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Alan Aragon

アラン・アラゴンはフィットネスの分野で18年以上にわたって活躍しています。栄養学の修士課程を優秀な成績で修了。ISSNやNSCAなどアメリカの数多くの団体で顧問を務め、メンズフィットネスマガジンに毎月コラムを掲載。同誌では「食事管理はこの男に訊け」とされています。ロサンゼルス・レイカーズをはじめにNBAやNHLなどのスポーツチーム、オリンピック選手、その他のプロスポーツ選手に栄養摂取の指導も行っています。自身で最新の研究結果のレビューを配信するAlan Aragon's Research Reviewは、プロ・アマを問わず非常に多くの読者の信頼を集めています。

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