HMBはお金の無駄

投稿者 : 本橋 直人

HMBはお金の無駄皆さんは身体づくりに行き詰まりを感じた時に、サプリメントを使うかを悩んだことがあるかもしれません。
「プロテインの10倍の筋肥大効果がある!」「数週間でモテボディに!」という宣伝文句と一緒に、カッコいい体形をしたモデルの写真が載っているのを見ることで、なんとなくそのサプリメントがすごい効果を持っているのだと感じることもあると思います。中には、そうした宣伝を見ていくつかの商品を試したことがある方もいるかもしれません。


こういうサプリメントを使って、うたい文句通りの効果が本当に得られているのかを確認するということはほとんどないと思います。また、ご自身の身体を使ってサプリメントを摂る場合と摂らない場合と違いを比べるのには限界があります。そこで、公正に行われた研究の結果を見ることで、サプリメントの効果がどれくらい期待できるのかを知っておくことに価値が出てきます。

最近、「HMB」と呼ばれるサプリメントが注目を集めています。HMBは、ロイシンというアミノ酸が代謝される過程で生まれる物質です。「HMBを摂ると筋肉量を劇的に増やせる」と宣伝されることもありますが、こういう宣伝は間違った情報に基づいている場合もあり、どこまで信用できるのか不透明なことが多いです。

そこで今回の記事では、HMBが宣伝されているほど筋肥大に効果的なのかを検証していきます。

筋肥大の仕組み

HMBの話題に入る前に、そもそも筋肥大がどのようにして起きるのかをサッとご説明していきます。この仕組みが分かると、「HMBが筋肥大に効果的だ」と宣伝されているワケが理解しやすくなります。

筋肉はイロイロな物質からできていますが、その中でもたんぱく質が多く含まれるのはイメージできると思います。筋肉に含まれるたんぱく質は「筋たんぱく質」と呼ばれ、これがどのくらいあるかが筋肉量に関係してきます。

筋たんぱく質は、運動や食事の状況に応じて、常につくられたり分解されたりしています。筋たんぱく質がつくられることを「筋たんぱく質合成」と呼び、分解されることを「筋たんぱく質分解」と呼びます。

図1 筋たんぱく質の増減イメージ AthleteBody.jp

長期的なスパンで見た時に、筋たんぱく質分解よりも筋たんぱく質合成の方が大きい状態が続くと筋肉が増えていくということです。

HMBによる筋たんぱく質合成と分解への効果

HMBが筋肥大に役立つメカニズムとして次の2つが挙げられています。

  • 筋たんぱく質合成を促す
  • 筋たんぱく質分解を抑える

HMBを摂ることで、それぞれにどのような効果があるのかを見ていきましょう。

研究1:HMBによる筋たんぱく質合成の効果

HMBを摂ると、筋たんぱく質合成が促されることが分かっています。

この研究では、被験者をHMBを摂るグループとロイシンを摂るグループに分け、150分後に筋たんぱく質合成がどう変わるかを比べました。

どちらのグループも、筋たんぱく質合成は実験を開始する前の2倍くらいになっていました。しかし、両グループの間に違いは見られませんでした。

図2 150分間での筋たんぱく質合成の推移 AthleteBody.jp

ロイシンは筋たんぱく質合成に最も重要なアミノ酸とされます。肉や牛乳などのたんぱく質に豊富に含まれていて、高たんぱく質の食事を摂っていればロイシンも自然と必要量を確保できます。つまり、HMBが筋たんぱく質合成を促す効果は、たんぱく質をしっかりと摂る場合とあまり変わらないと考えられます。

次は、筋たんぱく質分解について見ていきます。

研究2:HMBによる筋たんぱく質分解を抑える効果

トレーニングの刺激が自分の身体にとって不慣れなレベルになると筋たんぱく質の分解が強まります。例えば、トレーニングを始めてすぐの頃や、トレーニング内容が一気にキツくなるような場合が挙げられます。

この研究では、日頃から筋トレをしない人をHMBを摂るグループと摂らないグループに分け、筋トレを始めてから3週間での筋たんぱく質分解の推移を比べました。

両グループの筋たんぱく質分解は、次のようになりました。

図3 3週間での筋たんぱく質分解の推移 AthleteBody.jp

HMBを摂ったグループの方が、トレーニングを始めてから1〜2週の期間では、若干ですが筋たんぱく質分解が抑えられた傾向が見られます。

HMBによる筋肥大の効果

普段トレーニングをしない人が筋トレを始める場合

トレーニングを始めて間もない人やブランクがあった人では、継続的にトレーニングを行っている人と比べて筋たんぱく質分解が起きやすいです。この時、HMBを摂ることで筋たんぱく質分解が抑えられ、筋肥大に役立つと考えられています。

ただ、実際に筋肉が増えるかは、長期的な分解と合成のバランスで決まるので、分解が抑えられたから必ずしも筋肉が増えるとは言えません。

研究2では、除脂肪体重がどう変わるのかも比べられています。除脂肪体重は筋肉量を直接表すわけではありませんが、筋肉量の変化を見る参考になります。

グループごとの除脂肪体重の変化は次のようになりました。

図4 3週間での除脂肪体重の増え幅 AthleteBody.jp

この研究では、除脂肪体重の変化が調べるのに古い技術が使われており、データに誤差がある可能性はあるのですが、HMBを多く摂るグループの方が、除脂肪体重の増え幅が大きくなる傾向が見られました。

研究3:筋力トレーニング経験者の場合

日頃からトレーニングをしている人は、筋トレをしても筋たんぱく質分解が起こりにくいです。そのため、HMBによって筋たんぱく質分解を抑えるという効果があまり意味を持たず、筋肥大を促すことに結びつかないと考えられています。
実際に、トレーニング経験者ほどHMBの効果が出にくいということがいくつかの研究で見られているので少し紹介します。

この研究は、トレーニング経験者をHMBを摂るグループと摂らないグループに分け、6週間で除脂肪体重にどのような違いが出るかを調べました。

図5 6週間での除脂肪体重の増え幅 AthleteBody.jp

どちらのグループも除脂肪体重は増えていましたが、グループの間に大きな違いは見られませんでした。

研究期間が長くなったり、トレーニング内容が違ったりすることでHMBによる効果に違いが出てくる場合もあります。しかし、そういった場合でもHMBによる効果の差は小さいと考えられています。

少し古いデータになりますが、2009年にHMBに関する複数の研究結果をまとめる研究が行われており、トレーニング経験に関係なくHMBの筋肥大への効果は非常に小さいと結論づけられています。

さらに、筋力トレーニングを1年以上続けている人とスポーツ競技者を対象とした複数の研究結果をまとめる研究が、2017年に発表されています。トレーニング経験者、スポーツ競技者共に、HMBを摂ったことによる筋肥大への効果はほとんど見られなかったと結論づけられています。

信ぴょう性の薄いHMBの研究

ここ数年の間に発表された2つの研究で、HMBを摂ると劇的に筋肉量が増えるという結果が出ています。この研究結果は、HMBのサプリメントを販売するときの宣伝材料として使われるようになりました。

しかし、研究者の間では、これらの研究は信ぴょう性に欠けると考えられています。ここでは注意喚起の意味も込めて、どういうことなのかご紹介しておきます。

HMBは筋肉増強剤よりも効果的か?

信ぴょう性が疑われている2つの研究は、同じ研究グループから2014年2016年に発表されました。
どちらの研究も、トレーニング経験者にHMBを含むサプリメントを摂ってもらい、筋トレを12週間行なった時に除脂肪体重がどれだけ増えたのかを調べています。

それぞれの研究で使われたサプリメントの内容と、除脂肪体重の変化は次のようになりました。

  • 2014年の研究
    サプリメント:HMB3g
    結果:除脂肪体重が7.4kgアップ
  • 2016年の研究
    サプリメント:HMB3g+ATPという物質400mg
    結果:除脂肪体重は8.5kgアップ

これは現実離れした結果なのですが、この数字だけを見てもピンと来ないという人もいると思います。そこで、筋肉増強剤を使った研究と比較してみると、どういうことなのか見えてきます。筋肉増強剤はドーピング検査のあるスポーツでは禁止薬物になっていることはみなさんもご存知かと思います。

この研究では、トレーニング経験のある被験者に筋肉増強剤を注射で摂って、筋トレを10週間行ってもらいました。そして、除脂肪体重が6.1kg増えるという結果になりました。

HMBを含むサプリメントの効果を調べた2つの研究と、筋肉増強剤を使ったこの研究での被験者の除脂肪体重の増え幅をグラフにしてみると次のようになります。

図6 各研究での除脂肪体重の増え幅 AthleteBody.jp

HMBを使った両方の研究で、筋肉増強剤を注射してトレーニングした場合よりも除脂肪体重が大きく増えたということになります。ただのサプリメントであるHMBが、筋肉増強剤よりも高い効果を発揮するというのは、いかに極端な結果が出た研究かがお分かりいただけると思います。

こういったことも踏まえて、ここで紹介した2つのHMBの研究は次の点で厳しく批判されています。

  • これまで行われたHMBの研究からは考えられないくらい高い効果が報告されている
  • 筋肉量が増えにくいトレーニング経験者を対象にして、ここまで高い成果を上げた研究は他にはない
  • 論文内で報告されている研究方法やデータについて、つじつまの合わない不自然な点がある

こういう不透明な部分を明らかにするため、複数の研究者が連名でHMBの研究をしたグループに対して質問状を提出しています。この研究グループとしては、批判に対する釈明の機会でもあるわけですが、残念ながら回答は得られていないようです。

まとめ

HMBの効果についてこれまでに分かっていることをまとめていきます。

  • 筋肥大の効果は小さい
    効果の出方はトレーニング経験によって変わるものの、基本的にHMBの筋肥大への効果は小さいと考えられます。
    筋トレを普段からしていない人であれば、HMBを摂ることで少しだけ筋肉を増やしやすくなるかもしれません。トレーニング経験者であれば、HMBを摂って筋肉が増えると効果を実感するのは難しいと考えられます。
  • 「絶大な効果が出た」という研究結果は信ぴょう性が薄い
    ここ数年の間に発表された、「HMBを摂れば、驚くほど効果的に筋肉が増える」という2つの研究は信ぴょう性が薄いです。しかし、「プロテインの10倍の効果!」というように、サプリメントを販売する時の宣伝材料として使われているので注意が必要です。これらの研究結果を基にHMBの効果を判断するのはオススメしません。
    基本的には、HMBによる筋肥大の効果は決して大きくないと認識していただくのが無難です。
  • 高齢の方や病気によって筋肉が減りやすい場合には効くかもしれない
    筋肉が減りやすい高齢者や病気などで身体を動かせない人たちにとっては、HMBが役に立つかもしれません。こういう方を対象としたいくつかの研究では、HMBを摂ることで、何も摂らない場合よりも筋肉量を維持したり増やしたりできたことが見られています。

おわりに

HMBに限らず、サプリメントを摂ることの優先順位は、カロリーや三大栄養素の量を管理することと比べて高くないと考えます。サプリメントを摂るかは最後に考えることだと思います。

図7 栄養管理の重要度ピラミッド AthleteBody.jp

△ ピラミッドの土台に近付くほど重要度が高くなる

優先順位をしっかりと押さえた上で、ホンのわずかでも筋肉の増え幅を伸ばしたい場合、サプリメントの購入に回せるだけお金に余裕があるのであれば、HMBを試してみても良いかもしれません。ただし、その効果は非常に小さいかもしれないということは頭に置いておいても良いと思います。

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カナダ・バンクーバーで活動中のパーソナルトレーナー&指圧セラピストです。科学的根拠に基づくフィットネス指導をモットーとし、筋力トレーニング・栄養指導・コンディショニング指導の三本柱を軸に、パーソナルトレーニング指導をしています。
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