リフティングベルトを科学する

投稿者 : Greg Nuckols

リフティングベルト 筋力トレーニングリフティングベルトを使ったトレーニングの効果、利点、問題点に関して、インターネット上で読める中で、ほぼ間違いなく最も広くカバーした記事です。

長くなるので、要点だけまとめると以下のとおりです。

  • ベルトを使うとジムでのパフォーマンスが上がる。
  • パフォーマンス向上は、長い目で見ると筋力・筋肉量の伸びにつながる。
  • ベルトを使わずにトレーニングするのが良い場面はあるものの、トレーニングの大部分でベルトを使う利点がある。

記事からのリンク先はすべて英語ページです。


ベルトを使ってトレーニングをするべきかどうかというのは、おどろくほど議論の多いテーマです。
「ベルトを使うとケガのリスクを劇的に小さくできるから、いつでもベルトを使ってトレーニングするべきだ」と主張する人がいます。一方では、「体幹が弱くなるからベルトを使うべきではない」という人がいたり、「ベルトのような外的な補助に頼って大きな重量を挙げても、それは自分の本当の力ではない」という人がいたります。
最後のポイントは考え方の問題で、ベルトを使う効果とは関係のない話なので、この記事では掘り下げません。

では、実際のところどうなのでしょう?ベルトを使うと安全性は上がるのか?体幹が弱くなるのか?
この記事ではこれらの疑問に答えを出し、ベルトを使ったトレーニングの効果を詳しく解説していきたいと思います。

パフォーマンス

まず、ベルトを使うと大抵パフォーマンスが上がります。これは難しく考えなくても分かるでしょう。ベルト無しでとんでもない重量を挙げている人も探せば見つかりますが、100人いれば99人はベルトを使ったほうが大きな重量を挙げることができます。
例えば、自分のやり方で自分なりに記録を伸ばすということが目的ではなく、パワーリフティングのように決められたルールの中でできる限り大きな重量を挙げることが目的の場合、ベルトをあえて使わないという選択は考えにくいです。

ただ、ベルトを使ったトレーニングにも慣れが必要です。ベルトを初めて使った日にさっそく自己記録を更新してしまう人もいますが、ほとんどの場合は、少なくとも何回かトレーニングを重ねてベルトの正しい使い方を覚えていきます。
事実、アイソメトリックな挙上動作(背中の筋力中心の動作1種類と、脚の筋力中心の動作1種類)でベルトの効果を調べた研究では、ベルトを使った経験のまったくない人は、発揮できる力や腹圧にまったく変化がでないという結果が出ています。

図1 ベルト使用での最大筋力の変化 AthleteBody.jp

挙上速度

複数の研究で、ベルトを使うとウェイトを挙げるスピードが上がるという結果が出ています。これもすぐ分かることだと思いますが、1RM(1回だけ挙上できる最大重量)に対する割合と挙上速度には、直接的なつながりがあります。ベルトを使うとより大きな重量を挙げられるわけですから、同じ重量ならベルトを使った方が速く挙げられるようになるのは不思議なことではありません。

トレーニング経験のある人を対象に、ベルトの有無での違いをデッドリフトで検証した研究があります。被験者のベルトなしの1RM(平均~315lbs)の90%にあたる重量で比べたところ、ベルトを使った方が最大床反力を発揮するのが0.3秒早かったという結果がでました。つまり、ベルトを使った方がデッドリフトでバーベルを引き始めてから、最も大きな力を出すまでに掛かった時間が短くなったということです。
挙上動作全体の所要時間には違いが見られませんでしたが、他の研究ではデッドリフトでは床から引き始めるところからヒザ下あたりまでが最も力が出にくいとされているので、この研究ではベルトを使った人たちが挙上動作の最後まで全力で挙げなかった可能性も考えられます。ベルトを使うとロックアウトがしにくくなるなんていう話が出てこない限りはそう考えるのが自然でしょう。

図2 最大床反力発揮までの時間 AthleteBody.jp

トレーニング経験のある人(少なくとも8RMが125.5kgか体重x1.6倍の筋力レベル)を対象にスクワットで検証した研究では、スクワット1レップに掛かる時間が6%短くなり、さらにセット後半に向かうにつれて時間差はすこし広がったという結果が出ています。特にスクワット動作の一番キツい部分で違いが現れました。

図3 スクワット動作全体に掛かる時間 AthleteBody.jp

図4 スティッキングポイントを抜けるのに掛かる時間 AthleteBody.jp

さらにスクワットに関する他の研究では、トレーニング経験のある人(ベルトなしの1RMが156kgか体重x1.8の筋力レベル)を対象に、ベルトなしの1RMの90%の重量でスクワット1レップに掛かる時間が9%短くなる結果が出ました。

図5 同じ負荷のスクワットに掛かる時間 AthleteBody.jp

この研究では、コンセントリック局面での平均挙上速度はベルト使用時の方が約15.5%速くなりました。

図6 スクワットのコンセントリック局面のスピード AthleteBody.jp

挙上速度そのものが必ずしも重要な要素だというわけではありませんが、同じ重量での挙上速度は最大筋力と非常に強い相関関係にあります。
このデータは間接的ですが、パフォーマンスにどの程度の影響があるのか考えるのに有効で、トレーニング経験があってベルトの使い方を知っている人の場合、およそ5~15%くらいの範囲で違いが出ると考えられます。

レップ数が伸びる

ベルトをする利点でもうひとつ分かりやすいのが挙上回数が増えることです。どうして重要なのか簡単に触れておきます。
トレーニング種目や可動域の使い方などの要素をすべて同じに揃えたとき、トレーニングへの適応(筋力・筋肉量アップ)に最も影響するのはボリュームと強度です。
ベルトを使うと、5~15%重たい重量で同じ回数を挙げられたり、同じ重量なら1~3回程度多く挙げられたりします。同じ重量で同じ回数なら楽にこなすことができます。
長い目で見るとこういう良い変化は積み重なって、脚、股関節、背中などの筋力・筋肉量アップにつながっていきます。

トレーニング効果

私の知る限り、これまでにベルトを使ってトレーニングを行ったグループと、ベルトを使わなかったグループを長期間にわたって比べた研究はありません。あとでもう少し詳しく触れますが、これは現在の科学的文献の大きな穴とも言えるもので、長期的なトレーニング効果を考えるには、EMGデータなどをもとに推測をして穴を埋める作業が必要になります。
スクワットもデッドリフトもベルトの有無で身体の使い方は大して変わりませんが、幸いにも生体力学的に似た(身体の使い方が似た)動作であれば、長期的なトレーニング効果を予測する材料として、EMGデータは信頼できると考えられます。EMGに関してもっと深く知りたければ、ブレット・コントレラスが徹底的に解説してくれている記事(英語)がありますが、ここでは掘り下げません。
ちなみに、ここで紹介した研究ではベルトを使った場合も使わなかった場合も同じ重量が使われました。つまり、ベルトをしたことでやや楽になった場合と、ベルトがないことでややキツい場合を比べています。絶対的に同じトレーニング強度(例:ベルトを使う場合も使わない場合も、ベルトなし1RMの90%)ではなく、相対的に同じトレーニング強度(例:ベルトを使った場合の1RMの90%と、ベルトを使わない場合の1RMの90%)を比べると、ベルトを使った場合の方がEMGはすこし高い値を示すだろうと考えられます。

脊柱起立筋

脊柱起立筋に関しては、いろいろなEMGデータが混在しています。
まず、デッドリフトでは、トレーニング経験のある人(少なくとも1RMが体重x1.5)を対象にした研究で、ベルトを使った場合は腰腸肋筋(脊柱起立筋の一部)の活動レベルが15~20%低くなりました。ただし、この研究で使われた重量は被験者の体重の75%で、せいぜい1RMの50%にしか過ぎなかったことに注意が必要です。
トレーニング経験のない人を対象に、アイソメトリックな挙上動作を用いた研究では、ベルトを使った場合に脊柱起立筋の活動が17%上がりました。
最後に、ディビジョン1-Aという大学アメリカンフットボールの選手を対象に、12RM(1RMの70〜75%)の重量でのデッドリフトを検証した研究では、脊柱起立筋のEMGデータにベルトの有無による違いは見られませんでした。
全体で見ると、どちらの方向にも最大20%振れていることになりますが、条件的に最も参考になるアメリカンフットボール選手が12RMの重量を使った研究では、有意な違いは見られませんでした。

次にスクワットです。トレーニング経験のない人が、脚の筋力を主に使うアイソメトリックな挙上動作を行った研究では、ベルトを使った場合、脊柱起立筋の活動が18%上がりました。
1RMの60%の重量でスクワットを行った研究では、ベルトを使った場合、脊柱起立筋の活動が23%上がりました。
トレーニング経験のある人を対象にした2つの研究(少なくとも8RMが125.5kgか体重x1.6倍の筋力レベルと、ベルトなしの1RMが156kgか体重x1.8の筋力レベル)では、8RMと1RMの90%の重量でスクワットを行いましたが、どちらもベルトの有無による有意な違いは見られませんでした。さらに、1RMの90%の重量でスクワットを行った別の研究では、脊柱起立筋の活動が若干下がりました。
全体で見ると、トレーニング経験のない人や軽い重量を扱う時にはベルトを使うと脊柱起立筋の活動が上がるかもしれませんが、トレーニング経験のある人が大きな重量を扱う場合には、ベルトを使っても目立った違いは出ないと考えられます。

デッドリフトから見ていきましょう。ディビジョン1-Aのアメリカンフットボールの選手を対象に12RMの重量を用いた研究では、大腿四頭筋、ハムストリングス、内転筋、大臀筋のEMGデータに変化はありませんでした。
私の分かる範囲では、脚と股関節まわりの筋活動のEMGデータがあるデッドリフトの研究は他にありません。

スクワットに関しては、十分なトレーニング経験のある被験者を対象にした研究が2つあります。
一方の研究では、8RMの重量で8レップを複数セット行い、ベルトを使った場合にスクワットのスティッキングポイントで外側広筋(大腿四頭筋の一部)の活動レベルが上がり、セット後半にかけてハムストリングスの活動レベルが上がるという結果が出ました。

図7 スクワットのスティッキングポイントでの外側広筋のEMG比較 AthleteBody.jp

図8 スクワットでの大腿二頭筋のEMG比較 AthleteBody.jp


もう一方の研究では、ベルトなしでの1RMの90パーセントの重量を用いて、外側広筋、大腿二頭筋(ハムストリングスの一部)、大内転筋、大臀筋のEMGデータには有意な違いが認められませんでした。

大腿四頭筋のEMGデータに違いが出たのは、はじめの研究がスクワットのコンセントリック局面を3段階(しゃがんだ姿勢からの立ち上がり、スティッキングポイント、挙上動作終了まで)に分けてデータを採ったのに対して、ふたつ目の研究ではコンセントリック局面全体の平均データを採ったことが影響している可能性があります。はじめの研究でもコンセントリック局面全体の平均を見ると大きな違いはありませんでしたが、最も重要なスティッキングポイントだけに注目すると違いがはっきりと見られました。

おもしろいことに、ふたつ目の研究ではバーベルの前後移動に関してもデータが採られ、ベルトを使った場合にはより前方に重心が動く傾向があり、前後移動が26%増えるという結果が出ました。そうすることでポステリアルチェーン(身体の裏側の筋肉群)の活動レベルを維持したまま、スティッキングポイントで大腿四頭筋の活動レベルを上げることができるのかもしれません。

ハムストリングスのEMGデータに違いが出たのは、8RMで8レップという設定のはじめの研究では、1RMの90%で1レップだけだったふたつ目の研究よりもセット後半にかけて疲労が溜まったことが影響したのかもしれません。はじめの研究では、セットはじめの2レップでは大腿二頭筋の活動レベルに変化はありませんでしたが、レップ数を重ねるにつれて活動レベルが上がっていきました。この活動レベルの上昇幅はベルトを使ったグループの方が大きくなりました。

セット後半にかけてハムストリングスの活動レベルが上がったのは、疲労が大きな要因でしょう。また、セット後半にかけて上半身の前傾も約5度大きくなりました。ハムストリングスは通常、ヒザと股関節の間の力の伝達に使われており主動筋ではありませんが、主動筋(大腿四頭筋、大臀筋、内転筋)が疲労するに従って、ハムストリングスに頼らなければならなくなったということでしょう。
ベルトを使った場合に大腿二頭筋の活動レベルの上がり方が大きかったのは、次のような理由が考えられます。私たちの身体の神経系は脊椎を痛めないことを最優先に働いています。ハムストリングスは骨盤を後傾させる方向に引っ張りますが、これは腰椎を屈曲させる方向に引っ張ることにもなります。ベルトを使った場合は、腹圧が上がり、脊椎に掛かるせん断荷重が軽減され、骨盤が安定します。これで脊椎を守るという神経系の最優先課題はカバーされるので、ハムストリングスがより強く収縮するのを許容する傾向が出るということかもしれません。

この段落をサッとまとめると、デッドリフトでは、ベルトを使っても主動筋の筋活動に変化はありません。
スクワットでは、スティッキングポイントで大腿四頭筋の活動が上がる可能性があります。さらに限界ギリギリのセット後半ではハムストリングスの活動が上がる可能性がありますが、1レップずつのセットを行った場合や、まだ余裕のある段階で止めた場合には大きく変わらないでしょう。

腹筋

体幹が弱くなるのでベルトは使わない方がいいという意見が多いので、腹筋のトレーニング効果への影響に興味のある人は多いでしょう。
まずはデッドリフトから見ていきましょう。背中の筋力を主に使ったアイソメトリックな挙上動作を用いた研究では、腹直筋の活動レベルが少し上がり、外腹斜筋の活動レベルは下がりました。
アメリカンフットボールの選手が12RMの重量を使った研究でも同じ結果が見られ、こちらは有意な差になって現れました。

図9 デッドリフトでの腹筋のEMG比較 AthleteBody.jp

つまり、デッドリフトではベルトを使うと腹直筋の活動は少し上がり、外腹斜筋の活動は少し下がると考えていいでしょう。

次にスクワットです。脚の筋力を主に使ったアイソメトリックな挙上動作を用いた研究では、ベルトを使った場合、腹直筋の活動が有意(54%)に上がり、外腹斜筋は有意差とは言えませんが若干(14%)活動が下がりました。
トレーニング経験のある人を対象に行われた2つの研究(8RMと1RMの90%を使用)では、外腹斜筋の活動に有意差は認められませんでした。

つまり全体としてみると、ベルトを使うと腹直筋の活動が上がるかもしれません。(トレーニング経験のない人を対象にした研究ひとつだけで断言はできませんが。)外腹斜筋の筋活動にはおそらく影響がないと考えていいでしょう。
また、ベルトを使ってスクワットやデッドリフトをすることで体幹が弱くなったり、体幹の筋力が伸びにくくなる可能性は非常に低いと言えます。

安全性

ベルトを使ってトレーニングをしている人の大半は、ベルトにパフォーマンスよりも安全性を求めていると思います。しかし、私の知るかぎりこのトピックについて研究は行われておらず、ベルトを使うことで怪我のリスクにどんな影響があるかはハッキリしたことが言えないのが現状です。
日常的に重たい物を持ち運びする肉体労働者を対象にした研究はかなりの数が行われていますが、結果はなにも変化が見られなかったり、小さな効果が認められるにとどまる傾向があります。
また、これまでに怪我の経験のある人がベルトを使うと、怪我の再発リスクを下げることができるので意味があり、これまでに怪我の経験のない人には特に効果がなく、むしろベルトを使うのをやめたときに怪我のリスクが上がるという意見もあります。

脊椎生体力学の第一人者であるStuart McGill教授は、ウェイトトレーニングをするトレーニーも含めてほとんどのケースでベルトは使うべきではないとしています。ベルトの効果を最大限に得るには、脊椎を屈曲させ、ベルトで固められた胴体がまっすぐ戻ろうとする反動を利用する必要があります。しかし、挙上動作中、脊椎がまっすぐに保たれていれば、この効果は最小限にとどまります。つまり、言い換えると、ベルトの効果を最大限に活かすには、背中の怪我のリスクを大きく上げるような身体の使い方をしなければいけなくなるとMcGill教授は話しています。

McGill教授は脊椎生体力学の分野では私よりも豊富な知識を持っていますが、この説明に私は完全に賛成ではありません。
少しでも重い重量を挙げることを目的とするパワーリフティングの選手でも、特にスクワットでは意識的に背中を曲げてウェイトを挙げる人はあまりいません。しかし、ベルトを使うことで最低5%~10%ほどの記録アップができない人を探すのは大変です。これは、背中を曲げた反動以外にもベルトを使うことでパフォーマンスに影響する要素があるということです。

ベルトの大きな効果として腹圧が上がることが挙げられます。腹圧の上がり方はベルトの種類と挙上種目によって変わります。
ウェイトリフティングで使われるような薄いベルトではパワーリフティング用の厚いタイプよりも腹圧の上がり方は小さくなるかもしれません。(意味のある違いはないと示唆する研究が少なくともひとつありますが)
デッドリフトでは、ベルトを使うと腹圧が約15%上がり、スクワットでは30~40%も上がります。

この腹圧の上昇には良い効果と悪い効果があります。脊椎に掛かるせん断荷重に耐えられるようになるのが良い効果です。挙上動作中の血圧の上がり方が大きくなる可能性があるのが悪い効果としてあげられます。

ベルトを使うことで脊椎の圧縮にどのような影響があるかについてはデータが混ざり合っています。McGill教授の研究所では、バルサルバ法を使う(息を止めていきむ)だけで椎間板内圧が上がることが確認されました。
一方で、ベルトを使う場合と使わない場合で脊椎が圧縮される程度を比べた研究が2つありますが、どちらもベルトを使った方が挙上動作中の脊椎の圧縮は小さくなるという結果がでています。
片方の研究では10RMの負荷でサーキットトレーニングを行ったところ、~25%の違いが見られました。(ちなみに、被験者はスクワットの10RMが平均61kgで、トレーニング未経験ではありませんが、筋力レベルは決して高くありませんでした。)
もう一方の研究では~50%ともっと大きな違いが見られましたが、この研究ではデッドリフト20回x8セットという変わった設定が使われており、ここでの結果をどれだけ参考にすべきかは疑問があります。
はじめの研究では、ベルトなしの方が被験者からの違和感・不快感(痛みではなく)の報告が有意に多くあり、この違和感の訴えと脊椎の圧縮には有意な相関関係が見られました。

図10 スクワットとデッドリフトを含むサーキットトレーニング時の違和感と脊椎の圧縮率 AthleteBody.jp

ここに挙げた情報が十分なトレーニング経験を持つ人にどれだけ当てはまるかは議論の余地があります。腰椎と椎間板は圧縮荷重をうまく逃がせるようにできていますし、筋力が上がるほど脊椎は圧縮されにくくなります

安全性を上げるためにできることとして選択肢がふたつあります。ひとつ目は、ベルトを使ってトレーニングをすることに抵抗がなければ、ベルトを導入することです。ふたつ目は、動的神経筋安定化に取り組んで違和感を減らすことです。
私はどちらの方法も有効だと思います。動的神経筋安定化に取り組みつつ、少なくとも独力で体幹の安定性を確保できるようになるまで、ベルトで違和感が減らせるなら併用していくのも良い方法でしょう。

いま分かっていることの限界

まず、一番ハッキリしている問題は、(私の知るかぎり)これまでにベルトを使った場合と使わなかった場合のトレーニングへの適応を長期間にわたって比べた研究がないということです。
EMGデータは有効ですが、長期間のトレーニングの結果を考える場合、EMGデータは「おそらくこうなる」という予測を立てるのに使えるところにとどまるので、どんな結論にいたっても過信は禁物です。

もうひとつの問題として、ベルトを使う場合と使わない場合で、体幹の筋肉の使い方が変わることが多いということがあります。
ベルトを使う場合、「ベルトを押すようにお腹を突き出す」という指導が一般的です。まともなベルトは使用中に伸びないので、ベルトにお腹を押しあてることで腹圧が上がり、脊椎を安定させることができます。
ベルトを使わない場合、深く息を吸い込んだら、お腹まわりの筋肉を引き締めてお腹を引っ込めることで腹圧を高めます。このベルトなしスクワットの動画が良い例です。この選手はベルトを使うときのようにお腹を外に押し出していないのがハッキリ分かります。

こういった体幹の筋肉の使い方の違いによって、長期的なトレーニング効果が変わり、深層筋の適応に影響を与える可能性はあります。(腹直筋や外腹斜筋のような表層筋と違って深層筋はEMGでチェックすることができません。)

ベルトを使った方がいい人・使わない方がいい人

ベルトを使わない方がいい人

まず、ベルトを使わない方がいい人から考えていきましょう。
血圧の問題を抱えていたり、血圧が上がることで悪化する問題を抱えていたりする人は、ベルトを使わない方がいいでしょう。さらに言うとバルサルバ法自体を避けた方がいいでしょう。
腹圧が上がることで悪化する問題を抱えている人(ヘルニアなど)もベルトを使わない方がいいと思われます。

ベルト使用を避けた方がいいかもしれない人

どれだけの重量を挙げられるかが直接関係しないスポーツのアスリートが挙げられます。チームスポーツやトラック競技などが考えられます。投てき競技の選手は例外と言えるかもしれません。
ベルトを使わない方がいい理由付けとして、スポーツのプレー中にベルトを使うことはできないので、トレーニングでもベルトを使わないことで、ベルト無しで体幹を引き締める感覚を覚えられるという考え方があります。
これに反対する考え方として、体幹の引き締めは動作パターンによって特異性が高いということがあります。ベルトを使わないスクワットやデッドリフトではうまく体幹を安定させられなくても、それがスプリントやカットなど実際のスポーツ動作の中で、いかに体幹の引き締めをうまく使えるかということには、あまり影響しません。
もし自分のスポーツのプレーの中で体幹をうまく使えていないと感じれば、そのスポーツ動作の中での体幹の引き締めを練習する機会を増やすのがいいでしょう。一般的な体幹の引き締めは自分のスポーツに特有の動作には大した効果がないかもしれません。

ベルトを使うにしても、ベルトのタイプを慎重に選んだ方がいい人

ここには肥満体形の人と、背の低い人、それからウェイトリフター(重量挙げの選手)があてはまります。
ウェイトリフティングでは、身体を低く落とせる方が有利になるので、可動域を制限するようなベルトは使いたくありません。具体的に言うと、例えばベルトを使わない方が低い位置でクリーンのキャッチができるなら、フロントスクワットもベルト無しでするのがいいでしょう。細いベルトを使っても、同じ深さでクリーンのキャッチができるなら、スクワットもフロントスクワットもそのベルトを使えばいいでしょう。国際ウェイトリフティング連盟(IWF)のルールでは、パワーリフティングよりも幅の広いベルトの使用が認められてはいるのですが、私はこれまでにハイレベルなウェイトリフターがパワーリフティング用のベルトを使っているのを見たことがありません。まぁ、もちろんゴツいベルトをしても同じようにキャッチができる選手もいるのかもしれませんが。
肥満体形や背の低い人も細めのベルトを使うのがいいかもしれません。ゴツいベルトをするとデッドリフトの引き始めの姿勢が取りにくくなる人が少なくありません。腹圧を上げることができても、変な姿勢になってフォームが乱れてしまっては本末転倒です。

ほぼ間違いなくベルトを使った方がいい人

パワーリフターとボディビルダーです。
挙上重量アップや、挙上回数アップ、同じ重量・回数を挙げた際の疲労の減少(全体でのボリュームを増やせることにつながる)など、この記事のはじめに話したベルトの利点を考えると、使わない手はありません。トレーニング強度とボリュームという長期的に見て筋力を上げていくのに最も重要な2つの要素を効果的に伸ばせるのに気が進まないなんてことはないでしょう。

ベルトを使わない状況

上に書いたことを踏まえて、ベルトを使わずにトレーニングをするのが良い場面もあります。
まず考えられるのは、股関節やヒザを酷使して疲労が溜まっていて、関節を休めつつもしっかりトレーニングしたいという状況です。ベルトを使わないことで自然と挙上重量は制限されるので、重量を抑えつつやりごたえのあるトレーニングができるでしょう。

他に考えられるのは、ベルトを使ったときとベルトを使わないときの挙上重量に大きな差(10〜15%以上)がある場合です。これはベルト無しでは体幹をうまく安定させられず、ベルトの力に頼って高重量を挙げているということかもしれません。私の経験では、これはまれなケースで、数週間もあれば解決できます。また完全に私個人の経験上の話ですが、これが問題になるのは、小さな家を持ちあげられるくらいの人たちで、トレーニング中以外の場面で、普通に高重量を挙げていれば付き物というレベル以上の痛みが背中や股関節に出るということがあります。

もうひとつ触れておくと、ベルトの効果には性別による違いがあるかもしれません。パワーリフティング用のベルトを使ったトレーニングではありませんが、重量物を持ちあげたり運んだりする際にベルトの有無が腹斜筋の活動レベルに与える影響を調べた研究では、平均して腹斜筋の活動レベルが下がる結果が出ました。ただし、男性被験者6人中5人で腹斜筋の活動レベルは上がり、14人いた女性被験者は全員で活動レベルが下がりました。
私の知る限り、ジムでのトレーニング形式で性別による違いを調べた研究はないので、あまり深刻に捉えなくてもいいと思いますが、頭の隅にとどめておくといいでしょう。

ベルトを使い始めるタイミング

いつベルトを使い始めればいいのかというのはよくある質問です。
スクワットやデッドリフトの重量が140kgや180kg、もしくは体重x1.5に到達したときなど、なんらかの目安になる数字がよく使われます。
私に言わせれば、みんないつでもベルトを使いたいと思ったときに使い始めれば良いと思います。生理的に言えばベルト使用を我慢しないといけない理由なんて特にありません。

もちろん、ベルト無しで体幹を引き締めてトレーニングができるようになることは重要です。ストレングススポーツでベルト使用が関連して怪我が発生するというデータは見たことがありませんが、「ベルト無しで不安を感じることなくスクワットやデッドリフトができるようになること」と、「誰かが勝手に決めた目標重量に到達するまでベルトは使ってはいけない」ということは全く意味が違います。

記事のはじめの方で言いましたが、ベルトを使ったトレーニングには慣れが必要です。ベルトを使いこなせるのもスキルのひとつであり、ほとんどの人はベルトを使い始めてすぐには効果を得られません。
初心者の人は、はじめの1〜2ヶ月はベルトを使わずトレーニングしてみるのは良いと思いますが、私にはベルトに慣れるのをいつまでも先延ばしにする理由が分かりません。
はじめの数ヶ月は、トレーニングの70〜80%くらいをベルト無しで行って、慣れるにしたがってトレーニングの70~80%でベルトを使うくらいまで比率を上げていくように考えるといいかもしれません。

ベルトの使い方

ベルトの位置を決める

通常、ベルトは腸骨稜(腰の横に手をあてたときに触れる骨のでっぱり)のすぐ上にくる位置に巻きます。
スクワットでは、人によってベルトがおへその上にくるようにしたり、まっすぐにしたり、おへその下にくるようにしたりと角度を調節します。
デッドリフトでも角度調整をしますが、通常ベルトがおへその上にくるか、まっすぐかのどちらかになります。ベルトを下に向けると、邪魔になってうまく引き始めのポジションに入れない可能性が出てきます。
実際のところ、ここは好みの問題なので、自分が快適に感じる位置に合わせればいいでしょう。ベルトに慣れるにしたがって、高さや角度をいろいろと試してみて、しっかり体幹の引き締められる位置を探していくといいと思います。

ベルトのキツさ

ベルトは思い切り息を吸えるギリギリのキツさまで締めましょう。十分に空気を吸えなかったり、空気を吸っても胸やお腹を膨らませる余裕がなく、肩を上げなければいけないようならキツすぎです。
十分に空気を吸える位置にベルトを合わせて、そこからもうひとつキツいベルト穴を試してみて、まだ十分に呼吸ができるようなら、少なくともスクワットではキツい方でいくのがいいでしょう。デッドリフトでは、ひとつユルくした方が引き始めのポジションに入りやすいと感じる人も少なくありません。

痛みはこらえる

10cm幅など幅広のベルトを使うと、腸骨稜の上に沿って強く押し付けられるので、あざができてしまうことがよくあります。特に背の低い人には顕著です。ベルトに皮膚がはさまれてしまうこともあります。これは体脂肪の多い人によくある悩みです。10cm幅の革製ベルトは、馴染むまで着け心地の良いものではありません。革が馴染むごとに着け心地がよくなり、あざもできなくなっていきます。大事に扱えばほぼ半永久的に使えるので馴染むまでは痛みに耐えるか、どうしてもツラい場合は細いベルトに替えるのもいいでしょう。

パワーリフティングのベルト選び

ベルトの選び方はシンプルです。スクワットに関しては10cm幅のベルトが一番でしょう。ベルトが邪魔になってデッドリフトの引き始めの姿勢に入るのが難しいと感じれば、前面が細いテーパーが掛かったタイプや、全体が6.35cm(2.5inch)のベルトを使うのもいいかもしれません。
また、ベルトは9mm〜13mm程度まで厚みにも幅があります。9mm厚のベルトは比較的馴染みやすく、着け心地がよく、13mmのベルトはより丈夫にできています。ただ、どちらでも何十年がもつので、耐久性についてはあまり悩む必要はないでしょう。

ベルトはレバーか、プロングと呼ばれるバックルで固定します。
レバーは素早く着け外しできる利点がありますが、サイズが決まってしまうという欠点があり、サイズを調整するには数分かけてドライバーでレバーを付け替える作業が必要になります。スクワットとデッドリフトでサイズを変えたい人や、ちょっと食べ過ぎた翌日に普段よりお腹が出て苦しい場合なんかには不便です。
プロングベルトを使うとしたら、ぜひとも1本ピンのタイプを選びましょう。2本ピンの方がガッチリ留まりそうでカッコいいと思う人もいるかもしれませんが、特に安定性が高くなるわけではなく、特にベルトをガッチリ留めたいと思うとピンを通す穴の数が少ない方がずっと便利です。

まとめ

良いベルトを手に入れましょう。血圧と腹圧が通常よりも高くなることが問題になる人や、ウェイトリフティングの選手で、より低い位置でバーベルをキャッチする必要がある人でなければ、ほとんどの場合ベルトを使って良い効果を得られるはずです。

リフティングベルト パワーリフティング

黒:1本ピンのプロングタイプ。背面10cm、前面6.35cmのテーパー。
青:全体が10cm幅のレバータイプ。

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Greg Nuckols

グレッグ・ナコルズはアメリカのストレングスコーチです。
世界トップクラスのパワーリフターでもあり、スクワット342.5kg、ベンチプレス215.5kg、 デッドリフト329kgの自己ベストを誇ります。
現在はPhD取得に向けて活動しており、科学的知識と最前線で戦うアスリートとしての経験の融合を自身のテーマとしています。

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