河合智則先生がお送りする腰痛シリーズの第2回目です。今回は腰に痛みが出てしまったときに気をつけること、治療を受ける専門家の探し方、そして筋力トレーニングに復帰する際に注意すべきことについてお話しします。
=== ここから本編 ===
前回の記事では、筋力トレーニング中に腰痛が起こるメカニズムをお話ししました。ひとくちに筋力トレーニングで起こる腰痛と言っても、痛みの原因や障害の程度はさまざまなため、「痛みが出たときはこれさえしておけば大丈夫」というようなシンプルな答えはありません。
筋力トレーニングで腰を痛めないためには、十分に睡眠を取ることや、ストレスを溜めないなど、日頃からのコンディションづくりが大切です。しかし、筋力トレーニングは身体に大きな負荷を掛けるため、腰痛が起こるリスクを完全にゼロにすることは難しいです。特に、スクワットやデッドリフトのように高重量を扱う場合は、怪我のリスクが高くなると考えられます。
それでは、トレーニング中に腰を痛めたらどのように対処していけば良いのかを見ていきましょう。
筋力トレーニングで腰を痛めたら
腰痛にこんな症状があれば迷わず病院へ
腰痛と共に次のような症状が出ている場合は、神経や骨に何らかの損傷を受けている可能性があります。すみやかに医師に診てもらってください。
- 動きや時間帯に関係なく痛む
- 脚の痺れがある
- 脚に電気が走るような痛みがある
- 明らかな筋力低下がある
- 他動での可動域の低下がある
(自分の力ではなく、壁やレジスタンスバンドなどを使って関節を動かすことのできる可動域の低下。)
上に挙げた症状が見られない場合でも、念のために医療機関で受診されるのをオススメします。問題があればすぐに処置が可能ですし、何もなければ自己判断で「大丈夫だろう」と考えるよりも安心することができます。
治療の専門家に頼るときは
医師から診断を受けた後に、なんらかの治療の専門家を頼ることがあるかもしれません。どのようにして自分に合う専門家を探せばいいのかは皆さんが悩むところです。ここでは専門家を探すコツを見ていきましょう。
専門家を探す1:治療内容や方針の説明が論理的かを確かめる
治療の専門家は、これまで積み上げてきた経験からだけではなく、科学的な知見を基に治療内容と方針を決めています。専門家が治療内容と方針について論理的に説明できるかどうかを確かめることで、その人が信頼の置けるかを見分けるのに役立ちます。
ただし、説明された内容が論理的に聞こえたとしても、必ずしも正しい科学的知見に基づいているとは限りません。そのため、説明内容や情報の信ぴょう性を自分で確認することも重要になります。
専門家を探す2:セールスが過剰ではないかを確かめる
売り上げを重視するあまり、自分の治療の効果を大げさに宣伝する専門家も少なくありません。次のような謳い文句がよく使われます。
- 私の施す治療でないとあなたの身体は治らない
- あなたの症状を良くするには、最低でも○○回の治療を受けないといけない
最終的に不調を治すのは、皆さんの身体に備わっている治癒力です。専門家から受ける治療は、身体が不調を自分で治すように導くためのきっかけにしか過ぎません。
その治療効果を大げさに宣伝したり、恐怖心を煽ったりするようなセールストークにはご注意ください。
専門家を探す3:家族や友人から紹介してもらう
家族や友人が信頼を置いている専門家がいれば、その人を紹介してもらうことが一番の近道かもしれません。
ただ、このような場合であっても、専門家が治療方針や内容を説明できるかやセールストークが過剰でないのかを確かめることをオススメします。
症状が良くならなければ「セカンドオピニオン」を受ける
専門家から長い時間かけて治療を受けても腰痛の症状が良くならない場合、別の専門家から「セカンドオピニオン」を受けることが役に立つかもしれません。
担当の専門家に嫌われてしまうことを恐れてセカンドオピニオンを受けたがらない人を多く見かけます。しかし、違う方針で治療を受けることで症状が良くなるケースは少なくありません。専門家を代えることを選択肢のひとつとして考えることは決して悪いことではありません。自分の身体を治すことを優先して考えましょう
自分に合った専門家に巡り会えるかどうかは、良い縁に恵まれるかどうかにもよります。皆さまが本当に信頼できる専門家を見つけ、納得のいく治療を受けるようにされてください。
筋力トレーニングを再開するときは
腰痛の症状が良くなったと感じても、筋力トレーニングを再開する前に医師や専門家に確認をするようにしましょう。トレーニングを再開する許可が出たら、次のことに注意してトレーニングを進めてください。
- 痛みが出ないトレーニング種目を選ぶ
- トレーニング量や強度を抑える
- トレーニングを行った翌日以降にも身体の動きや、可動域、痛みなどの問題が起きない
しばらくトレーニングから離れていた場合には、以前と同じ重量が挙がるのかを確かめたくて気がはやるかもしれません。しかし、いきなり以前使っていた重量を持ち上げようとすると、再び怪我をするリスクが上がります。軽い重量でフォームを確認しながら、徐々にトレーニング内容を戻していくようにしましょう。
ウォームアップで腰痛のリスクを減らす
筋力トレーニング前にウォームアップを取り入れることで、トレーニング中に腰を痛めるリスクを減らせると考えられます。再び腰を痛めないためにも、これからはウォームアップを入念に行うようにしましょう。
ウォームアップには決まった形があるわけではなく、トレーニングと同じように個人の状況に合わせて組み立てることが大切です。実際に、運動中に行われる動作や怪我が起こるメカニズムを考慮して作られたウォームアップを行うことで、スポーツ競技の練習や試合中に起こる怪我の数を減らせたことが確認されています。[1, 2]
このことから、筋力トレーニング中に腰を痛めるメカニズムを考慮してウォームアップを組み立てることが大切だと考えられます。さらに、パフォーマンスが良くなることも研究で確認されていますので、トレーニングで高重量を扱うことにも役立ちそうです。
ウォームアップでは次の効果があり、腰を痛めるリスクを減らせると考えられます。
- 身体を温める
- 神経が活発に働くようになる
2つの効果がどのようにして腰痛のリスクを減らすのかを見ていきましょう。
1. 身体を温める
ウォームアップで筋肉を動かすことによって身体を温めることができます。体温を上げることで、筋肉に怪我を負うリスクが抑えられると考えられています。
ウサギの筋肉を対象とした研究では、温かい状態の方が冷たい状態よりも損傷を受けにくく、大きな力に耐えられることが見られています。これは動物の筋肉が対象ですが、ヒトの場合であっても、体温を上げることで筋肉がより大きな負荷に耐えられるようになり、怪我をしづらくなると考えられています。
また、体温が上がると筋肉のまわりをおおう筋膜も伸びやすくなり、怪我をしにくくなると考えられています。
2. 神経が活発に働くようになる
ウォームアップを行うと神経が活発に働くようになり、脳から「身体を動かそう」という命令が筋肉にスムーズに伝わるようになります。
力が出しやすくなって大きな重量が扱えるようになるだけでなく、自分の頭に思い描いている動作をスムーズに行えるようになることで、適切なフォームを維持しやすくなると期待できます。
また、ウォームアップに複数の動作パターンを取り入れることも有効です。いろんな動作を通じて、神経にいろんな刺激を与えることで、各関節がどんな位置にあるか、その関節がどのように動いているかを把握する感覚が鋭くなります。そこで得られる感覚情報を反映して、より繊細な身体の使い方が可能になると考えられます。このこともフォームの乱れを防ぐことにつながって、腰を痛めるリスクを減らすと期待できます。
ウォームアップを効果的に行う7つのステップ
これまでお話しした内容を踏まえ、いよいよスクワットやデッドリフトで腰を痛めるリスクを減らすためのウォームアップをご紹介していきます。効果的なウォームアップは、次の7つのステップに分けることができます。
- 有酸素運動
- セルフ筋膜リリース
- 静的ストレッチ
- モビリティドリル
- アクティベーションドリル
- ジャンプ
- メインセット前に軽い重量を使う
それでは、それぞれのステップを見ていきましょう。ここでは参考になりそうなドリルを多数ご紹介していますが、全ての動画をご覧になる必要はありません。身体の状態に合わせて、必要そうなものを確認し実施するようにしてください。
ステップ1:有酸素運動(5〜10分程度)
有酸素運動を行うことで、身体を効果的に温めることができます。軽く歩いたりバイクをこぐなどの運動が使えます。
有酸素運動をウォームアップとして行うときは、強度を高くしすぎないのがポイントです。例えば、有酸素運動をしている最中に隣の人と会話するのが難しく感じる場合は、ウォームアップとしては強度が高すぎるかもしれません。この場合、筋力トレーニングのために使うエネルギーを無駄に消費してしまう可能性があります。
有酸素運動を軽い強度で5〜10分ほど行えば、身体を温める目的は十分に達成できます。気温によっても多少の違いがありますが、「軽く汗ばむ程度」を目安にしてください。
ステップ2:セルフ筋膜リリース
筋肉に張りやコリが残っている状態で筋力トレーニングを行うと、身体の一部だけに負荷が掛かりやすくなり、腰痛を引き起こす可能性が高まります。セルフ筋膜リリースを行って筋肉の張りをほぐすことで、怪我のリスクを減らすことができると考えられます。
セルフ筋膜リリースの効果について詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照されてください。
スクワットやデッドリフトの場合には、次に挙げる部位の張りをほぐすことで、動作がスムーズに行えると考えられます。
リストとして挙げている全ての部位にセルフ筋膜リリースを取り入れる必要はありません。動かしづらいと感じる部位にセルフ筋膜リリースを行なってみてください。
ふくらはぎ
- スクワットでしゃがむと、足首が硬くてかかとが浮いてしまう場合に行うと有効です。
太ももの前側
- 太ももの前側、特に太ももの付け根あたりが硬くてスクワットとデッドリフトで身体をかがめづらい場合に行います。
胸と肩
- スクワットでバーを担ぐときにうまく胸が張れない場合に行うと有効です。
上背部・肩まわり
- 上背部に張りがあるときや、スクワットでバーを担ぐと肩に窮屈さを感じるときに行うと有効です。
腰
- 腰に張りを感じるときに行うと有効です。
- 背骨の真ん中にある突起を強く圧さないように気をつけて下さい。
ステップ3:静的ストレッチ
可動域を広げたいと思う部位に対して、筋肉が伸びた姿勢を一定の時間だけ保持する「静的ストレッチ」を行うこともできます。静的ストレッチは可動域を広げる効果がありますが、やり方によっては発揮できる筋力やパワーを減らすという望ましくない効果を出してしまう可能性があります。
こうした望ましくない効果を抑えて静的ストレッチの利点を生かすためには、次の点に気をつけて行うようにしてください。
短い時間で行う / 強い痛みや不快感を出さない
静的ストレッチを1分以上かけて長く行ったり、痛みや不快感を強く感じるくらいに筋肉を伸ばすと、筋力やパワーが大きく減る傾向が見られています。静的ストレッチを短い時間で済ませ、筋肉を伸ばす度合いを抑えることで、筋力やパワーへの悪影響を最小限にすることができます。
パフォーマンスに影響の出にくい部位へ行う
トレーニングのパフォーマンスに直接関係のない筋肉であれば、じっくりとストレッチをしても望ましくない効果は出にくいと考えられます。
例えば、スクワットでバーベルを担ぐときに肩まわりの硬さを感じる場合に、胸や肩まわりに静的ストレッチを行っても、スクワットの挙上重量に影響がほとんどないと考えられます。
静的ストレッチ後にモビリティドリルやメインの種目を軽い重量で行う
モビリティドリルとは、静的ストレッチとは対照的に、さまざまな種類の動きを通して可動域の拡大を図ったり運動する準備を整えたりするものです。
静的ストレッチでは、筋力やパワーが落ちてしまう可能性があるとお話ししましたが、静的ストレッチの後にモビリティドリルやメインのトレーニング種目を軽い重量で行うことで、悪影響を最小限に抑えることが期待できます。(参考文献)
セルフ筋膜リリースだけを代わりに行う
また、セルフ筋膜リリースを静的ストレッチと同じ時間(1〜2分)掛けて行う場合、筋力やパワーは落ちないことが見られています。そのため、可動域を広げるためにセルフ筋膜リリースを静的ストレッチの代わりに用いるということもアリです。
ステップ4:モビリティドリル
モビリティドリルによってさまざまな動きを行うことで、一時的に可動域が広がり、神経が活発に働くようになると期待できます。
モビリティドリルではシンプルなものから複雑な動きまでさまざまな種類があります。どのドリルも身体を大きく動かすため、間違ったやり方で行うと身体を痛めることがあります。次のことに注意して行うようにしてください。
- 動作中は呼吸を止めない
- 反動を使って動かしたり、急に止めたりせず、身体を滑らかに動かすようにする
- 小さく動かし始め、徐々に動きを大きくしていく
- ゆっくりと動かし始め、徐々に動きを速くしていく
- シンプルな動きから始め、徐々に動きが複雑なものに挑戦する
また、モビリティドリルでは何も考えずに動きを真似しても意味がありません。身体を動かしながら、どこの筋肉が動いているのかを感じ取ることが大切です。こうすることで、筋力トレーニングで思い通りに身体を動かしやすくなると考えられます。
以下に、モビリティドリルのリストを挙げていきます。一度に全て行うことは現実的ではありません。個人の目的や身体のコンディションなどに合わせてドリルを選ぶようにしてください。
モビリティドリル:シンプルな動き
次にご紹介するモビリティドリルは、比較的シンプルなものです。モビリティドリルのはじめに2〜3種目を目安に行ってみてください。
股関節(前後の動き)
- 股関節の可動域を広げることを目的とします。
- ハムストリングスや太もも前側の付け根に硬さを感じる場合に行うと効果的です。
- 各脚10回を目安に行います。
股関節(左右の動き)
- 股関節の可動域を広げるのを目的とします。
- 内ももやお尻の外側に硬さを感じる場合に行うと効果的です。
- 各脚10回を目安に行います。
股関節+腰(捻る動き)
- 各方向10回を目安に行います。
上背部(捻る動き)
- 胸を開きやすくするために行います。
- スクワットやデッドリフトで胸を張りづらい場合に行うと効果的です。
- 片方10回を目安に行います。
足首
- 足首の前後運動を良くするために行います。
- スクワットをするときに足首が硬くてかかとが浮いてしまう場合に行うと効果的です。
- 各足10回を目安に行います。
モビリティドリル:複雑な動き
次にご紹介するモビリティドリルは、ここまでご紹介してきたものよりも動きが複雑になります。多くの筋肉を使うので身体を温める効果が高くなります。そのため、ステップ1で実施する有酸素運動の時間を短縮できる場合もあります。
また、これらのドリルを力強く、素早く行うことで神経を活発に働かせると考えられます。自分の可動域に合わせて、2〜3種目を目安に行ってみてください。
股関節+腰・上背(伸ばす動き)+ヒザ+肩
- 各脚5回を目安に行います。
股関節+腰(捻る動き)
- 各脚5回を目安に行います。
股関節+ハムストリングス+ヒザ+腰・上背(捻る動き)
- 各脚5回を目安に行います。
股関節+内もも+ヒザ
- 各脚5回を目安に行います。
股関節+ヒザ+ハムストリングス
- 5回を目安に行います。
ステップ5:アクティベーションドリル
次にご紹介する種目は、特定の筋肉を使う感覚を身に付けるのに役立ちます。スクワットやデッドリフトを行っていて、自分がうまく使えないと感じる筋肉に絞って取り入れてみてください。
臀部
- スクワットやデッドリフトでお尻を使う感覚を身につけるのに役立ちます。
- 10〜20回を目安に行います。
体幹部
- スクワットで深くしゃがむと腰が丸まる場合、これを事前に行うことで真っ直ぐさせやすくなります。
- 30秒を目安に同じ姿勢を維持します。
- 両側を行ってください。
広背筋
- デッドリフトでバーベルを身体に引き付ける感覚を身につけるのに役立ちます。
- 10回を目安に行います。
ステップ6:ジャンプ
ジャンプを行うことで腱や筋膜に張りが生まれ、筋肉が大きな力を出してもそれらの組織が怪我をしにくくなると考えられています。モビリティドリルの後に軽いジャンプを1分間ほど連続で行うことで、その効果を十分に引き出せると考えられます。
ただし、ジャンプを取り入れるときは注意が必要です。ジャンプは着地をする際の衝撃が大きいため、衝撃をうまく受ける身体の使い方が出来ない場合は、かえって筋肉や関節を痛める危険性が高くなります。このため、競技スポーツなどをしていてジャンプをすることに馴染みがある場合にだけ取り入れることをオススメします。
ステップ7:メインセット前に軽い重量を使う
スクワットやデッドリフトのメインセットに入る前に、軽い重量を使って動作の練習をしてください。例えば、メインセットで100kgを持ち上げるのであれば、その前に50kgや70kgを使って練習することは有効です。
ウオームアップをステップ1から7まで行うと、だいたい15〜20分程度かかります。これだけ念入りにウォームアップを行うことで、筋力トレーニング中に腰を痛めるリスクはだいぶ抑えられます。この後はスクワットとデッドリフトのメインセットを存分に頑張ってください。
ここまで腰痛のリスクを減らすためのウォームアップについてお話ししてきました。ここでご紹介したウォームアップの内容は、腰痛のリスクを少しでも下げるために考えられるホンの一例にしかすぎません。ぜひいくつかの種目を試していただいて、皆さんの感覚に合うものを取り入れるようにしてみてください。
スクワットのフォームチェック
腰痛を経験した後は、念入りにウォームアップをしてもスクワットとデッドリフトを問題なく行えるか不安かもしれません。正しいフォームでトレーニングを行うと腰を痛めるリスクは低くなります。高重量を扱う前に、もう一度フォームを確認するようにして下さい。
ここでは、スクワットとデッドリフトで腰を痛めるリスクを避けるために、一般的に注意するべき基本的なポイントを紹介します。
加重せずに身体とフォームを確認する
まず、重いバーベルを持たずに、例えば、ホウキの柄を肩に担ぐスクワットや自体重でのスクワットを行って問題が出ないのかを確認してください。
スクワットの動作を行うと次のようなことが見られるときは、治療の専門家にもう一度身体の状態を確認してもらうことをオススメします。
- 可動域がひどく制限されている
- 動作を行うと、どこかに痛みがある
フォームが正確に取れていれば、ごく軽く感じるところから少しずつ重量を増やていくようにしましょう。じれったく感じるかもしれませんが、怪我をする前の重量にいきなり戻らず、じっくり進めていく方が、安全で確実な場合が多いです。
腰が丸まる位置までしゃがみ込まない
人によっては、深くしゃがみ込むと腰が丸まってしまうことがあります。これには各個人のスクワットの習熟度、身体の構造、柔軟性といった要素が影響していて、腰の丸まる深さや丸まる程度には個人差がありますが、腰が丸まったフォームでスクワットを繰り返すと、腰を痛めるリスクが高くなります。
スクワットで腰が丸まってしまう場合には、自分の身体の構造や柔軟性に合ったフォームや深さを探すようにして下さい。
立ち上がるときにお尻が先に持ち上がる
スクワットのコンセントリック局面でお尻だけが先に持ち上がり、上体が大きく前に傾いてしまうことがあります。このようなフォームは腰に大きな負担が掛かります。スクワットで立ち上がるときには、腰と肩が同時に上がり、上半身の角度を保つように気を付けてください。
デッドリフトのフォームチェック
腰と背中は「真っ直ぐ」を維持する
デッドリフトでも、腰と背中が反りすぎたり丸まったりした状態で高重量を扱うと、脊椎をはじめ腰まわりの組織への負担が高くなり、腰を痛めるリスクが高くなります。特に高重量でデッドリフトを行う場合には、図5左側のように腰が丸くなってしまわないように注意してください。
デッドリフトは身体からバーベルを離さない
デッドリフトで腰を曲げないためには、無理な重量を使わないことはもちろんですが、バーベルが身体から離れていないかもチェックしてみると良いかもしれません。図6では、図5の身体の使い方の違いをイラスト化しています。左側のフォームでは、バーベルが身体から遠い位置にあることに注目してください。
図6左側のように、バーベルを引き始める前の段階でバーベルが身体から離れている場合と、引き始めてから身体がバーベルから離れてしまう場合がありますが、どちらも背中が丸まってしまうことにつながりがちです。どちらが問題になっているのかを見極めて、修正していきましょう。
(デッドリフトのバリエーションによっては、意図的にバーベルと身体の距離を大きく取る場合もありますが、あらゆるデッドリフトのフォーム解説をするのが趣旨ではないので、ここでは例外として割愛します。)
フォームチェックには、経験豊富なトレーナーさんの指導を受けられるとベストです。それが難しい場合、スクワットでもデッドリフトでも、背中が丸まっていないかを自分で確認するには、真横からビデオ撮影するのが効果的です。ビデオで見る自分のフォームと図2〜図6を比べてみると良いかもしれません。
まとめ
ずいぶん長い記事になってしまいました。要点をまとめると、以下のようなことに注意すると、筋力トレーニングで腰を痛めるリスクを減らすことができます。
- 日頃からのコンディショニング
特にどこかを痛めていなくても、日頃から身体の調子を整えるように心掛けましょう。十分に睡眠を取り、ストレスを溜めず、運動をするといったことが怪我や痛みの予防にも有効です。このシリーズの前回記事も参考に。 - ウォームアップ
トレーニングに入る前に、ウォームアップを行いましょう。身体を十分に温めて、関節がスムーズに動かせるように、20分程度を目安に行ってください。 - 適切なフォーム
各トレーニング種目での身体の使い方を再確認しましょう。トレーナーさんの指導を受けられるとベストです。また、身体の使い方を知っていても、無理な高重量に挑戦するとフォームが保てなくなるかもしれません。基本を押さえて着実に進めましょう。
もともと筋力トレーニングの傷害リスクは低いのですが、それでも身体に大きな負荷を掛けるので、トレーニングで痛みが出るのをゼロにすることはできません。人によって、場合によって、症状には違いがあるかもしれませんが、軽い症状でも自分で判断せず、まずは医師に身体の状態を診てもらうことをオススメします。
その後、治療の専門家を利用するときには、自分にとって信頼の置ける人を選ぶようにしましょう。医師もその他の専門家も、どういう人を頼れるかは巡り合わせです。特に、自分の治療がうまくいっていないと感じるときには、セカンドオピニオンを受けるという選択肢があることをぜひ覚えておいてください。
おわりに
トレーニーやアスリートにとって、怪我のせいで思い通りに身体を動かせないことほどストレスを感じることはありません。病院に行っても「休みなさい」といわれる事がほとんどだと思います。医師たちは科学的根拠に基づいて症状を判断し、善意でアドバイスをしています。
しかし、例えばアスリートの場合であれば、先日の稀勢の里関のように、大けがを負っていても症状が悪化するリスクを承知の上で競技を続けないといけない場合もあります。
△ 2017年春場所、怪我を押して優勝を決めた稀勢の里関(出典:読売新聞写真部)
トレーニングで腰を痛めている場合にも、症状によってはできることもあります。トレーニングを休むべきなのか、いつ再開するべきなのか、再開するならどのように進めていくのか、難しい判断になることもありますが、最終的にはご自身で判断するしかありません。トレーニングをするという人生を選んだのも自身の人生の選択です。そして、その選択は最大限に尊重されるべきだと思います。
そのときに、選んだことによって人生が豊かになることもありますが、場合によっては怪我の悪化につながるリスクもあることを理解しておく必要があります。
今回のシリーズ記事が少しでも、怪我や痛みに悩むトレーニーやアスリートの助けになれば幸いです。
Stay active, stay healthy.
河合智則
文責:本橋
はじめまして。
いつも記事を楽しく読ませて頂いてます。
いきなりですが、本題に入らせてもらいます。
今日、スクワット中ボトムの時に腰に電気が走り立てなくなりました。
10年ほど前に椎間板ヘルニアになって以来の激痛なんですが、痛みがその時と違います。
症状は何もしなくてもとりあえず痛くて、腰を曲げたりするのも痛みます。
ひねりはそんなに痛みません。
整形外科のような医療機関に受診した方がよろしいでしょうか?
とりあえず明日、治療をしたいとは思っています。
はしもとさん、コメントありがとうございます。
お加減はいかがでしょうか?
>整形外科のような医療機関に受診した方がよろしいでしょうか?
お身体に問題が起きていないかを確認するためにも、念のために医師に診ていただくことをオススメします。
何も問題が見つからなければ、それで安心することができると思います。
どうぞ、お大事になさって下さい。
いつも楽しく拝見させて頂いております。
ご質問があります。
ウエイトトレーニング系の栄養の知識を勉強するのに、日本語でおすすめの
サイトや勉強会、集団ってありますかね?(できれば最新で、エビデンス重視ので)
元々スポーツ系の栄養士で、情報をアップデートしたいのですが
その業界には居ないので、中々見つかりませんで。
八百さんは嫌いそうなんですが、できればトレーニング系のサプリメント
についても勉強したいんですよね。
もちろんこちらのサイトでも大変、勉強させて頂いております。
わっふるさん、お久しぶりです。コメントありがとうございます。
>八百さんは嫌いそう
思わず笑ってしまいました。
このサイトやこのサイトで論文を多数紹介されています。個別の論文の情報は勉強になるのですが、それを頭の中で整理する作業は必要になるかもしれません。
ご返信ありがとうございます。
楽しみながら、勉強させてもらいます。
返信が遅くなってすみません。
お返事ありがとうございます。
eBookを参考にプログラムを考えてみます。
これからも、このサイトを見ながらトレーニングしていきたいと思います。
有料でもおかしくないほどの情報、いつもありがとうございます。
少しでも参考になれば幸いです。ガンバってください!
はじめまして、かな?
ウエイトトレーニングと平行して減量中の女性です。
こちらのサイトは、トレーニング記事にしろダイエット記事にしろ、科学的かつ現実的しかも人間味もあって、読むだけでモチベーションが上がるので、最新記事やテーマごとの記事だけでなく一番最初から全部読みたいんですが、2015年頃の記事までしかリンクが見えません。
過去記事のコメント欄などからリンクされたもので、時々2012年の記事に飛んだりできるので、けっこう前からあるサイトだと思うんですが…一番最初から順を追って読めるようにしていただけないでしょうか。
古い記事では、内容が現在記事と必ずしも一致しない事は頭において(リーンゲインズの取扱いなど)読みますので。
petitpiaf111さん、コメントありがとうございます。
>こちらのサイトは〜読むだけでモチベーションが上がる
ありがとうございます。
>一番最初から順を追って読めるように
トップページの下の方にあるページ番号をクリックしていただくと、過去の記事をさかのぼって読むことができます。
こんにちは。
いつも、ためになる記事をありがとうございます‼このサイトを参考にトレーニングをしている者です。
この度は、より良いトレーニングプログラムがないかと、メールさせていただきました。
私は、トレーニング記録で言えば、このサイトで紹介されている中級者程度の状態です。
仕事や家庭の事情で、3日に一回ほどしかトレーニングできないので、今はテキサスメソッド風のピリオダイゼーションを取り入れた独自のプログラムを行っています。
しかし、思うように成果が上がらないので、3日に一回のトレーニングで、オススメのプログラムがあれば教えて下さい!
HIROさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
HIROさんのトレーニング経験や、トレーニングの目的によって組み立て方はいろいろと考えられますね。
テキサスメソッドのような既存のプログラムをそのまま使うよりは、ご自身の状況に合わせて組み方を考えられるとベターかなと思いました。eBookの内容が参考になるかもしれません。
こんにちは。いつも記事を楽しく拝読しています。
このような記事はほとんど見かけないので参考になりました。私は怪我をした訳ではないのですが、疲労が溜まっていると感じていたこともあり、ウォームアップとしていつも行っている動的ストレッチに筋膜リリースとモビリティドリルを取り入れてみました。
その結果、いつものウェイトが軽く感じたり、よく攣っていた左足のふくらはぎ等にこりが見つかる等トレーニングのパフォーマンスが向上しました。ありがとうございます。
もし、可能であればベンチプレスを行う際に、ウォームアップとしてお勧めの筋膜リリースやモビリティドリルがあれば同様に紹介して頂けると有り難いです。宜しくお願いします。
Jinさん、コメントありがとうございます。
>もし、可能であればベンチプレスを行う際に、ウォームアップとしてお勧めの筋膜リリースやモビリティドリルがあれば同様に紹介して頂けると有り難いです。
どんなドリルが役に立つのかは個人のニーズによって変わってくるところで、それをコメント欄で伝えきるのはなかなか難しいです。さしあたっては、Jinさんが気になっている部位や動きに対するものを検索してみてください。
曖昧な回答になってしまいますが、少しでもヒントになれば幸いです。
筋力トレーニングのための一般的なウォームアップについては、いずれ別の記事にまとめようと思います。ぜひともそちらにご期待ください。
いつも記事を楽しみに見させているものの一人です。
記事とは関係がないのですが、一つ疑問に思っていることがあり、この場を借りて質問させてください。
最近なかなか仕事で忙しくトレーニングの時間が取れず、食事を管理しているはずなのですが、体重が少しづつ増えてきたので、数週間前から食事制限だけのダイエットをしています。具体的には、朝は普段から基本的にほとんど食べないので、昼と夜の2食の食生活のうち、定期的に夕食を抜いています。タンパク質の摂取量は、体質的に運動していないときにタンパク質を多く摂ると調子が悪くなるのですが、1日体重×一グラムはとるようにしていました。
数週間続けて、順調に体重は落ちて来たのですが、時折、夕食を抜いた翌朝にまったく運動してないのにもかかわらず筋肉痛のような痛みを体の各所に感じるようになりました。とはいえ、鏡で確認する限り、筋肉が落ちたような感じは今のしません。それどころか、太ももなんかはすこし大きくなっているような気もします。
食事制限をして筋肉が落ち、傷つき、その結果筋肉が修復され、超回復が働き、維持されているのだろうか、と一瞬思ったのですが、そうした事はあるのでしょうか?
言い方を変えると、運動以外の原因による、筋肉の損傷で筋肉が肥大するということはあるのでしょうか?
筋肥大について、筋肉の損傷と当時に、運動の結果筋肉繊維に蓄積れる乳酸と、運動そのものの刺激が必要である、というのが一般的な考え方であると思うので、冷静に考えると食事制限等が原因でおこる筋肉痛は筋肉を肥大させないように思えますし、その場合、僕のふとももはただ、むくんでいるだけなのかもしれません。
乱文になってしまいましたが、お時間のあるときにお答えいただけると助かります。
mikiさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
食事制限で筋肥大が起きるということは聞いたことがないですね。
痛みを感じられているのは、食事とはまったく別のことが原因になっている可能性もあるのではと思います。
コメント欄で答えを出せることではないので、心配であれば医師の診察を受けられるのが良いと思います。
本橋による河合先生へのインタビューをまとめた記事の第2弾です。
筋力トレーニングによって腰を痛めてからスクワットとデッドリフトを再開するまでにできることをご紹介しています。前回の記事と合わせて読んでいただくと腰痛についての理解が一層深まると思います。
腰を痛めたときに症状が軽いと思ってトレーニングを続けてしまい、余計に状態を悪化させてしまうトレーニーをよく見かけます。無理をすることで、かえってトレーニングを継続することが難しくなることは珍しくありません。こうしたことを避けるためにも、腰を痛めてしまったら、まずは医師に診てもらうことをオススメします。
また、腰を痛めてから少しでも早くトレーニングを再開したり、トレーニング中に腰を痛めるリスクを減らしたりするために出来ることはたくさんあります。この記事ではその一部をご紹介しています。
今回の記事が、皆さまが安全で快適な筋力トレーニングをするお役に立てると幸いです。