体脂肪測定法シリーズ最後の第4弾です。初回記事に用語の解説があります。
もともと骨密度を調べるための技術が進歩して体組成の推定に使われるようになったのがDXAです。
脂肪・骨塩・骨以外の除脂肪量と身体を3つの成分に分けることができる3コンパートメントモデルです。ここまでに紹介した2コンパートメントモデルとの違いは、人種間での骨密度の違いによる誤差を避けられることですが、DXAには他に誤差を生む要因があります。
DXAにはいくつか利点があります。かつて20〜25分掛かっていた測定時間は技術の進歩でいまは5〜10分で済みます。利便性が高く、切開などを伴わない非観血法です。
DXAは、エネルギーの異なる2種類のX線を身体にあて、その吸収のされ方を測定します。脂肪、骨塩、除脂肪組織はそれぞれX線の吸収特性が変わるので、骨密度と、身体の部位ごとに体組成の推定値を出すことができます。そして、全身を測定すれば体組成の推定値を出す事ができるという仕組みです。
DXAにある誤差の要因
他の体脂肪測定方法と同じように、DXAにも誤差を生む要因が数多くあります。
まず、メーカーによって違った測定結果が出ます。同じメーカーでも製品によって測定結果が一定しません。
ソフトウェアがアップデートされると体脂肪率を計算するのに使われるアルゴリズムが変わることがあります。ハードウェアとソフトウェアの構成によって、骨を覆う軟部組織の推定値が変わったり、撮影画像のピクセルの内、一部分が骨という場合の取扱いが変わったりします。
X線の種類も関係があり、扇ビームというX線では視差という問題があります。
さらに2コンパートメントモデルと同様に除脂肪量の水分量も誤差を生む要因になります。実際この実験では、除脂肪量の水分量が5%変わると、DXAでの体脂肪推定値は3%変わっています。身体のタイプや人種の違い、期間を空けての変化を見るときなど、除脂肪量の水分量が変わる場合、これは問題になります。
DXA VS 4コンパートメントモデル
DXAと4コンパートメントモデルを比べた実験はいくつかあります。グループの平均を比べると誤差は1〜2%となかなかの結果ですが、他の測定方法と同じように、個々に目を向けると誤差の幅はずっと大きくなります。
それぞれの実験や使われたDXAマシンの種類によって誤差の数字は変わります。4%と出た実験もあれば8〜10%の誤差を示した実験もあります。またDXAの測定精度は性別・体格・肥満度・健康状態などにも影響されます。
期間を空けて変化を見るときにも問題があります。この実験では、体重が増えた状態を再現するのに、被験者の脚にラードを巻き付けました。すると骨塩量の測定値が変わってしまい、体重変化があったときの体組成の変化を見る場合のDXAの測定精度に疑問を投げかける結果となりました。
ボディビルダーを対象にした実験では、体脂肪率のグループ平均はまずまずの精度を示しましたが、個人の誤差は4%まで広がりました。つまり、体脂肪率が4%落ちていても変化ナシという結果が出たり、実際に体脂肪は変わっていなくても4%体脂肪率が変わったような測定結果が出る可能性があるということです。
この実験では、体脂肪率の減り幅を大きく見積もり、増え幅を小さく見積もったという結果が出ています。減り幅については、最大5%のズレがありました。
このチャートは、ある実験で期間を空けて体脂肪の変化を調べたときの結果を示しています。
体脂肪率の変化 – DXAと4コンパートメントモデルの測定結果比較
X軸はDXAでの測定結果、Y軸は4コンパートメントモデルでの測定結果を示しています。測定結果がほとんど一致しないことが分かると思います。
1人は4コンパートメントモデルで5%の体脂肪増と出ていますが、DXAでは5%の体脂肪率減と出ています。他には、4コンパートメントモデルで10%減を示しながら、DXAでは3%減という結果の人もいます。これらの結果を見ると、期間を空けて個人の変化を調べたいときのDXAの信頼性を疑わざるを得ません。
結論
DXAは3コンパートメントモデルではありますが、必ずしも水中体重測定法より良い結果ではありませんでした。場合によっては劣る結果もありました。
他の測定方法と同じようにグループ平均を調べると良い結果を示しますが、個人の測定値は精度が落ちました。誤差の程度は5%程度が多く、実験によっては10%にもなりました。
期間を空けての変化を調べる場合、一部の実験での誤差は5%程度で、ずっと悪い結果が出た実験もありました。これを踏まえると、期間を空けての経過観察にDXAはオススメできません。もしどうしてもDXAで測定したいなら、測定間隔を長く取る(最低3〜6ヵ月)のをオススメします。それは減ったか増えたかを捉えるのに、ほとんどの場合で少なくとも5%の変化が必要だからです。
体脂肪率測定について紹介してきたこのシリーズは今回で終わりです。
- Part1では、体脂肪率は必ず誤差のある推定値でしかないこと、2・3・4コンパートメントモデルという測定法の基礎知識を紹介しました。
- Part2は、2コンパートメントモデルでは最も優秀な水中体重測定法の誤差を紹介しました。長い間信頼性が高くゴールドスタンダードとされてきた測定方法です。
- Part3は、生体インピーダンス方式。タニタやオムロンなど一般に市販されている体脂肪計は利便性のために精度を犠牲にしているという話をしました。
自分の体脂肪率が何%なのか興味がわく気持ちは分かりますが、その数字にとらわれる意味が無いことを感じてもらえればと思います。
初めまして。
いつも記事参考にさせて頂いております。
4つの記事を読ませて頂いてご質問なのですが、今回ご紹介のなかった皮下脂肪厚測定法はどれくらい正確に測定が出来るものなのでしょうか。
現在確認する限りでは、ATやS&Cの本に載っていたり、国際オリンピック委員会から推奨されていおり、国際基準の資格もあるようなのですが、他の計測方法とはどれほど差があるものなのでしょうか。
よろしくお願いいたします。
鈴木さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
皮下脂肪厚の測定は、まずキャリパーの取り扱いがうまくできるかが重要になりますね。訓練を受けた人であれば測定値がブレにくく、ある程度信頼できるデータにはなるようです。
ただ、皮下脂肪厚から体脂肪率を推定するとなると、この換算に誤差があり、皮下脂肪厚を正確に測定できているかに関わらず問題が出てくるようです。
誰が測定を行うのか、皮下脂肪厚を見るのか、体脂肪率を見るのか、どういう目的で使うのかといった状況によって有用性は多少変わるかと思いますが、このサイトでは基本的に使用をオススメしていないです。
わかりやすい回答ありがとうございましたm(_ _)m
神経質になりすぎず、体の経過を見守りながら摂取量を決めていきたいと思います
体脂肪率がわからないと除脂肪体重求められないわけで、そうなるとタンパク質の摂取量を除脂肪体重から計算するのは不可能では?
簡単に除脂肪体重測定できる方法はないものですかね…
モヤシさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
たんぱく質の摂取量を決める場合、例えば、体脂肪率30%の人と10%の人では必要量が違ってくる可能性があるということを考慮に入れるのが目的で、おおよその除脂肪体重が分かればOKです。
その上で、実際にたんぱく質をどの程度摂るかは、全体でのカロリー摂取量や他の栄養素との兼ね合いも考えて調整するもので、毎日の食生活の中での多少のブレも出てきます。
こう考えると、「除脂肪体重1kgあたり○○グラム」というのは考慮できれば良いという程度で、この部分を抜き出して、厳密に計算できなくても良いということがお分かりいただけるかと思います。
それでも気になるという場合、体脂肪が特に多くなければ、体重1kgあたりで計算しても良いと思います。
体脂肪率測定の数字は、それを見て気持ちが揺さぶられてしまったり、自分の身体の変化を知るヒントにしようとすると、誤差が大きな問題につながることがあります。この記事はそこについて考える材料にしてもらえればと思って掲載しています。
>簡単に除脂肪体重測定できる方法はないものですかね…
基本的に数字で正確に把握しようとしない方が幸せになれるように思いますが、英語でよければ姉妹サイトに計算ツールを公開しています。これでも誤差を防げるわけではありませんが、市販の体組成計よりは良いかもしれません。
こんにちは
興味深くてしっかりした記事が多く,楽しく参考にさせてもらっています。
本シリーズでは,正確な体脂肪測定は死体を切り開くことだ,みたいなことが書いてありましたが,
ぜひCTスキャンやMRIによる体脂肪測定にも触れてもらいたいと思います。
ダイエットには役立たないかもしれませんが,個人的に気になります。
Nobuさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
CTとMRIは、共に内臓脂肪測定のゴールドスタンダードとされ、他の測定方法(DXA、BIA、BMIなど)の精度を調べるための比較対象として使われていますね。
>ダイエットには役立たない
そうなんですよね。実際の減量生活で使うことのないものなので、記事として取り上げることはないと思います。
体組成に関する論文を読む際には知っておくと良いことですが、論文を読む人はCTやMRIに関する論文も自分で読んでみるのが良いのかと思います。
お忙しい中,興味本位の質問に丁寧に答えて下さりありがとうございます。
>ゴールドスタンダード
やはりそうなんですね。手軽ではありませんが,まさに切り開かずに切り開いたように中身を知ることができる手段ですものね。死体を~の下りで真っ先に連想しました。
>論文も読んでみる
そうですね。僕は一応工学系の研究者なので英語の論文は読むんですが,なにぶん身体については専門外なのでメタ知識が不足しています。本サイトはそういう意味でも(学術的な意味でも)興味深いものが多いです。たまにリンク先をちょろっと読んでみることもありますが・・。 もちろん,興味はおいといてもダイエットに大変役立たせてもらっています。
ともあれ,おすすめいただいたとおりMRIについても読んでみることにします。
MRIはスキャンに時間がかかるので、おそらく1時間以上、ガンガン爆音のなかヘッドフォンつけて身動きせずにじっとしているのはかなりの苦痛を伴うと思います。それに脂肪量を正確に計測するなら明瞭なT1強調画像が欲しいのでおそらく造影剤(ガドリニウム)を注射することになるのではないでしょうか。そうすると、CTに比べて放射線被曝のリスクがないとはいえ、結構な生体侵襲をともなう検査となりそうです。一方、全身CTだとかなり被曝する上に精度もMRIに比べて落ちると思います。
結局、どの程度の誤差なら許容できるのかという問題に帰着すると思うのですが、定期的に検査して変化を追うという目的にはMRI/CTいずれの方法もinvasiveでprohibitively expensiveということになりそうです。
こんにちは。
記事を楽しく読ませていただいています。
体脂肪率に誤差があるので一喜一憂していられないですね!
ところで、体脂肪率の誤差がそんなにあるのに、基礎代謝と消費カロリーを計算するのにどうしても必要ですよね。
推定値の推定値が、タニタなどの一般の体脂肪率が計算されて、さらにその体脂肪率を使って計算するから推定値の推定値の推定値になってしまいますね。あくまでも推定消費カロリーといえど誤差が大きすぎたりしませんか?
わたしも、リーンゲインズでダイエットお願いしようと写真を送る段階でとまっています。もう少し、痩せてから送ろうかと思って。だって、ちょっと見られた体じゃないですし恥ずかしいですから。上部腹筋は薄くなってきましたよ!でもまだまだ八百様にお見せするのは恥ずかしいな~。
りのさん、初めまして。コメントありがとうございます。
「推定値の推定値の推定値」ってそうですね。そういうことになりますね。
ウチのコーチングでも、クライアントさんの条件に合った食事量を探すという作業がとても大きなウェイトを占めています。
人の身体ってキレイに数字で計算し切れるものではないんだということですねぇ。
ご自身で歩みを振り返るためにも写真を撮っておかれるのはいいと思いますよ^^
お返事ありがとうございます。
クライアントさん(自分に)に合った条件を探すのはだいたいどのくらいの期間で探しますか?一週間くらい同じカロリーを食べてみて変わらなければつりあっているという具合ですか?女性は四週間データをとって比較するってダイエット記事で書かれていたと思います。
12週間のパーソナルを申し込んだら、最初の4週間は食事量を探すことに費やしてしまいますか?
ごめんなさい。質問ばかりで。
きれいに数字で計算しきれるものじゃないんですね~。それでも何かしら目安があったほうがいいですものね!
写真取る勇気がわいてきましたwありがとうございます
経過チェックは絶えず行うので、食事量が合っているかは随時気をつけるポイントです。減量中は少しずつ消費カロリーも下がって行きがちなので、一旦見つけてOKというものではないんですよね。
食事量の変更という意味では、あからさまにズレていなければ、少なくとも4週間単位くらいで経過を見て判断することが多いです。迷ったら結果を急がず様子をみると考えるといいかもしれません。
八百さん、初めまして。体脂肪率が分かるDEXAを行ってくれる日本国内の会社を知っていますか。今、短期で首都圏に住んでいるけど、是非やってもらいたいと思います。
初めまして、コメントありがとうございます。
DXAでの測定を行ってくれる施設は知りません。
この記事は、DXAも含めた体脂肪測定がいかに不正確で不必要かという趣旨なので、一度読んでからDXAで測定する意味があるか考えてもらうのが良いと思います。
分かりました。お返事ありがとうごやいました。
いつも参考にしています。
自分はいつも早朝にトレーニングをするのですが、そのあとにプロテインを飲んでしまいます。
リーンゲインの方法からすると飲まなくてもいいというか飲まないほうが良いようですが、朝にトレーニングをして昼まで食べなくても良いものでしょうか。
ちなみに夜は夜でスポーツをしています。
こんな生活なので、なかなか取り入れるのが難しいと感じています。
kimuraさん、初めまして。
トレーニング直後にプロテインを飲まなくても大丈夫です。飲んでも特に問題はありません。
「トレーニングしたらすぐプロテイン!」という話がよくあるので不安に感じているのかなと思いました。本当にどっちでも良いんですが、飲まない不安がストレスになるなら、その思い込みから抜け出す方が大事かも知れないですね。
しばらくトレ後のプロテインを抜いてみて(1日全体の摂取量は維持)身体やトレーニング記録が大きく変わるか試してみると良いと思います。
食事の時間帯に関してはいろんな記事を書いていますが、このピラミッドシリーズで重要度No.4としているのが実感してもらえると思います。
同じように、リーンゲインズは8時間の食事枠が絶対条件ではありません。ピラミッドの大事な方からできることを順番に取り入れてみてください。