体脂肪測定法シリーズの第3弾です。初回記事に用語の解説があります。
生体インピーダンス(BIA)方式の体脂肪計は、もっとも手軽な体脂肪率の測定方法のひとつですが、手軽な反面、測定精度が犠牲にされています。
生体インピーダンス方式では、身体に軽い電流を流します。脂肪よりも除脂肪量の方が電気抵抗が小さくなるので、こうして体内の電気抵抗を測ることで、理論上は脂肪量と除脂肪量を推定できるということです。
オムロンやタニタなど、生体インピーダンス方式を用いた体組成計は数多く出回っています。
メカニズムの問題
BIA方式の理屈は聞こえが良いのですが、問題をはらんでいます。
まず、電流は体内の抵抗の少ない場所を通るので、皮下脂肪がたくさんあれば、電流は脂肪を避けて内部組織を通ることになります。
加えて、水中体重測定法が体内水分量の変化の影響を受けると紹介しましたが、BIA方式では、この影響はさらに大きくなります。細胞内と細胞外にある水分を区別するため周波数の異なる電流を流す製品もありますが、この場合も電流が抵抗の小さいことろを通る問題は避けられません。
また、身体全体が測定されないという問題があります。タニタなどの多くの製品は、片足からもう片方の足へ電流を流すので、上半身は測定範囲に入りません。手に持つタイプの製品では、手から手へ電流が流れるので、両腕以外は範囲外になります。最近では、全身に電流を流すタイプも出てきていますが、BIA方式の抱える他の問題はすべて解決されないままです。
誤差に重なる誤差
BIA方式の最大の問題は「推定値を基にした推定値」を出していることです。
BIA方式の体組成計を開発する際、メーカーは推定値を出すための方程式を作ります。まず、被験者となる人を多く集め、他の方法を使って体組成を測定します。このときの測定方法は、通常4コンパートメントモデルではなく、水中体重測定法です。そして、ここで得られた体脂肪率や、身長、体重、性別などのデータを基に方程式が作られます。
つまり、BIA方式の電流を流した結果を、水中体重測定法を実施した場合に照らして推定値を出しているワケです。
ここで問題なのは、誤差の上に誤差が重なるということです。
水中体重測定法では、個人の測定値で最大6%の誤差が出るという話をしましたが、ここではBIA方式で電流を流した結果を、水中体重測定法の体脂肪測定結果に当てはめて推定値を出しています。つまり、推定値を基に推定値を出そうとすることで、二重に誤差を生んでいるのです。
実際の誤差はかなり大きな物になります。下のグラフは、ある実験で4コンパートメントモデルとBIA方式を使って測定した体脂肪量の差を示しています。
X軸は測定された体脂肪量の差で、Y軸はそれぞれの測定差が見られた人の数を示しています。この実験は50人の被験者を対象に行われました。
まず、全体に右寄りなグラフになっていることが分かります。これは、ほとんどの人について、4コンパートメントモデルの方が高い体脂肪量を示したということです。
また、多くの被験者でかなり大きな違いが出ていることも分かります。実際、50人中20人について、BIAは3.75kg以上少ない体脂肪量を示しました。さらに4.5kg以上の違いを示した人が50人中12人いました。
こちらのチャートはボディビルダーを対象に行われた別の実験で、4コンパートメントメントモデルと他の計測方法での体脂肪率の数値の違いを比べています。被験者の95%がこのチャートで示された範囲に納まります。
ここではBIAにのみ注目して欲しいのですが、上下両方に8%近い広がりがあり、使用された測定方法の中で最も大きなバラつきを示しています。つまり、ボディビルダーを対象としたこの実験では、BIA方式では8%もの誤差が出たということです。
BIA方式で体脂肪率の変化を見るのは?
生体インピーダンス方式の測定値は正確ではなくても、経過を見るのには使えるはずという人がいます。計測値の誤差が毎回一定だとする考えから来るものですが、残念ながらこれは当たりません。
水中体重測定法のページで話しましたが、体重が減ると、除脂肪量の密度と水分量も変わります。これが水中体重測定法で体組成の推移を測るときの精度を狂わせる要因になるなら、BIA方式の測定値がさらに大きな影響を受けるのは容易に想像できます。
研究者たちは、実際にBIA方式で体脂肪量の変化を測定した結果も調べています。ある実験では、BIA方式と4コンパートメントモデルで測定値に3.6%〜4.8%の差が出ました。
要するに、3.6%体脂肪が落ちていても測定値に変化が出なかったり、4%体脂肪が落ちたのに対して、8.8%落ちたという結果が出たりし得るということです。
この実験では、体脂肪量を推定するのに、1人の被験者を除いて、古典的なBMIがBIAと同じような正確性(誤差)を示しました。
上で紹介したボディビルダーを対象にした実験の結果を見てみましょう。誤差はさらに大きくなります。
ここでもBIA方式が最も大きな開きを示しています。BMIよりも大きな開きで、体脂肪率の変化を調べた誤差は最大で8%にもなりました。つまり、体脂肪率が4%落ちていても4%増えたという結果が出うるということです。
ページ上部で紹介した実験のグラフをもうひとつ見てみましょう。
X軸はBIA方式と4コンパートメントモデルで測定した体脂肪の減少量の差です。
Y軸は、その測定差を示した被験者の数です。
グラフ全体が大きく左側にズレていますが、ほとんどの人がBIA測定値よりも多くの体脂肪を落としていたという事です。
50人の被験者のうち、実に12人がBIA測定値よりも2.5kg以上の体脂肪を落としていました。測定値よりも7kg以上多く落としていた人も数人います。
BIA方式が体脂肪の減少量を過小評価するのは驚くことではありません。ページ冒頭で話したように、電流は皮下脂肪を通らないので、体脂肪が大きく落ちてもBIAでは検知できないということが起こります。
BIAで体脂肪が減ったという結果がでるのは、体重が落ちているのが要因です。体重はBIA方式の方程式に組み込まれているので、体脂肪減という測定結果になって現れます。実験によっては、BIAとBMIで測定結果の精度があまり変わらない理由はここにあります。
筆者の経験と対策
今回紹介した実験結果は、私自身のBIA方式を使った経験と一致します。私が以前勤めていたクリニックでは、大きな減量をされる方がたくさんいました。クライアントさんは絶えず400人程度居て、平均して40ポンド(18kg)程度の減量をされていました。
そんな中で、ときどき大きく体重を落とし、お腹まわりも小さくなっているのに、BIA方式で測定すると体脂肪率が上がったという結果の出る人が居ました。これは、しょっちゅうではありませんが、確実にありました。
こういうことが起きると、本人は精神的に大きなショックを受けてしまいます。泣き出してしまう人もいました。BIA方式はとても不正確な測定値を出すことがあると説明をしますが、体重やお腹まわりの測定値よりも体脂肪率の数字にこだわる人が多くいました。クライアントさんの多くはマイクロソフトの社員で、ハッキリした数字を重要視する性格の人が多かったのです。
私は、BIA方式での体脂肪測定を止めてしまおうと訴えましたが、マイクロソフト社は体組成の測定を義務付けました。(マイクロソクトの保険でプログラムの参加料はまかなわれていたのです。)
せめてもの対策に、BIAでの体脂肪測定の頻度を大きく落としました。以前は5週間に1回測定していたのをプログラム開始時と終了時のみに変えることで、この問題は改善しました。決して無くなりませんでしたが。
結論
BIA方式は、推定値を基にした推定値を出しており、誤差に誤差を重ねてしまうので問題があります。
グループの測定平均値を見ると、偏りが見られることが多く、実際の体脂肪量よりも低い値が出る傾向があります。
個人の測定値を見ると、実験によっては8〜9%と、大きな誤差が出ることが分かっています。実際のところ、体脂肪の推定に関してBIAはBMIと比べても特に優秀とは言えません。
体脂肪量の変化を測定する場合にも、BIAは体脂肪の減少量を過小評価する傾向があり、測定値は最大8%の誤差を示しています。
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