狙った筋肉に効かせるトレーニング

投稿者 : 岡田 隆

AthleteBody.jp 効かせるトレーニング 岡田 隆ウェイトトレーニングをするにあたって、まず全身をバランス良く鍛えるというのが基本方針にあるのが良いと思います。
バーベルのBIG3では大筋群を中心に動員しますが、その他の補助筋群もたくさん使われるので、全身を効率よく鍛えられます。実際、これだけでもかなり良い身体になれます。
特にスクワットとデッドリフトは重要なトレーニング種目です。もちろんスクワットは脚の筋肉を鍛えるのに効果的ですが、レッグプレスにはない疲労感は、いかにスクワットが全身を使う運動かという表れだと思います。
筋力・筋肉量を伸ばすだけでなく、心肺機能やスタミナ、さらにメンタル面も強くなるので、いろんな面で身体の土台づくりができて、他のトレーニングが楽になるという良さがスクワットとデッドリフトにはあると思います。


アスリートの場合、スクワットとデッドリフトで高重量を扱えるようになることで、全身の出力を高めることができます。
ボディビルダーのトレーニングでも、やはり高重量を扱える筋力を付けることが大前提で、ここがおろそかになるとアスリートでもボディビルダーでも早くに伸び止まってしまう人が多いです。
私のトレーニング指導しているアスリートでは、柔道男子100kg超級に七戸くんという選手がいて、スクワットとデッドリフトをしてもらっていますが、彼のお尻はスゴいです。やはりこういったトレーニングがないと厳しい世界では勝てないなと思います。特に重量級の選手には積極的にやって欲しいですね。

ボディビルの鍛え分けるトレーニング

ボディビルダーのトレーニングはオーダーメイド品

スクワットやデッドリフトで重量を追求するようになると、自然と高重量を楽に挙げられる身体の使い方を身につける人が多いです。アスリートのトレーニングでは高重量をガンガン挙げるだけでも良いのかなと感じる部分もありますが、ボディビルダーの場合には、スクワットやデッドリフトでもうまく動きをコントロールして狙った部位に効かせるということが重要になってきます。

重量が上がってくると動きをコントロールすることが難しくなってきます。うまく鍛えたい部位に効かせることができなければ、理想の体形に仕上げていくというのは難しくなるので、挙上重量を増やすことにこだわり過ぎると、遠回りになってしまう場合もあります。
逆に、効かせることに意識をうばわれて重量を伸ばせなくなるというボディビルダーもいて、このパターンに陥ると伸び止まってしまいます。ボディビルでは、両方を追求して自分が鍛えたい部分にうまく効かせながら、重量を伸ばしていくということが必要になります。

競技としてボディビルをする選手は、コンテストという品評会に出て結果を突き付けられて帰ってきます。彼らのトレーニングを見ると、「自分の身体のどこが足りないか」をよく考えてトレーニングしているなと思います。
例えば、「大胸筋が足りない」ではなく「大胸筋のどこが足りない」という風に、自分の課題を突き詰めて、その課題を克服するためのトレーニングを考えます。
そういう意味で、ボディビルダーのトレーニングとは、各個人の身体に合わせたオーダーメイド品のようなものだと言えます。人の身体はそれぞれ違うので、他のボディビルダーのトレーニングを見ても自分には全く使えないということはありますが、ヒントになることもたくさんあるはずです。

私自身も長くトレーニングを続けてきて、それなりに全身バランス良く鍛えてきたつもりでしたが、自らボディビルの大会に出場してみると、足りない部分があることに気付かされました。
こういう弱点は、次のシーズンまでの1年間に自分に必要なトレーニングがきっちりできれば、大きく改善することができます。逆に言えば、私のように長くトレーニングを続けてきた人間でも伸び代があるということです。ボディビルの大会に出ないトレーニング愛好家の方たちでも、少し見方を変えるとまだまだ伸ばせる余地は見つかるのだと思います。

ボディビル × 理学療法

ボディビルのトレーニングは、リハビリの世界に通じるところがあります。私は理学療法士でもありますが、リハビリでは「内側広筋の筋萎縮が起こっているから、ここだけを肥大させる運動を考える」というような場面が出てきます。
機能レベルとして、マイナス状態からプラスに持っていくのか、すでにかなり高いプラス状態からさらに伸ばしていくのかという違いはありますが、特定の筋肉に特化して鍛えるという意味では同じことをしています。

理学療法で特定の筋肉や筋線維という単位に特化して鍛える方法が採られるのは、それが人体の機能向上に有効であるからに他なりません。つまり、機能レベルの違いはあっても、特定の部位を鍛えるボディビルのトレーニングも確実に身体の機能を変えることにつながり、使い方次第でパフォーマンス向上に活かせると考えられます。

理学療法士は、これを患者さんという別の人間の身体で実践させなければいけない難しさがあります。ボディビルダーの場合は自分の身体で行うので、狙った筋肉を鍛えるという意味では、理学療法士よりも断然レベルの高いことができていると思います。

まったく一般の注目を集めることのない部分ですが、ボディビルダーは、それだけ高い知識や技術を持ってトレーニングを行っているということを、医療系トレーナーの方々をはじめ、広く知ってもらえると嬉しいです。
私は理学療法の知識をボディビルのトレーニングに活用していますし、お互いにリスペクトを持ってボーダーレスに交流できれば、学べることがたくさんあると思います。

柔道 × 鍛え分けるトレーニング

柔道選手もそれぞれに身体つきが違いますし、柔道の中での身体の使い方も違います。男子の73kg級くらいまでは筋肉でギチギチに詰まってしまうので、むやみに全身の筋肥大を求めると自分の階級の体重をオーバーしてしまいます。筋肉を増やせる余地が限られている中で、弱いところを補強するのか、強いところを伸ばすのかといった判断が必要になります。
そして、例えば背中を鍛えると言っても、狙ったところを鍛えるにはプルが良いのかロウが良いのか、グリップ幅はどれくらいが良いのかといった工夫が重要になります。これはまさにボディビルの鍛え分けるノウハウが活かされるところです。

鍛え分けるトレーニングの学び方

教科書や研究結果は最大公約数

トレーニング教本を見ると「大胸筋上部にはインクラインベンチプレス」と書いてあったりします。これは多くの人に当てはまる最大公約数です。
筋肉を動かした時の活動レベルを調べられる筋電図(EMG)という技術を使って、いろんな運動での筋活動を調べる研究が多く行われていますが、ここでは数多くの被験者の筋活動を調べ、やはり多くの人に当てはまる平均値が求められます。
この最大公約数がトレーニング種目選びを考える基本になるので、まずはそこから押さえていけば、大きく外さないトレーニングができるはずです。

ただ、人の身体は、骨格も、筋肉量も、神経系の発達も人それぞれで大きく違うので、同じトレーニング種目でも人によって効き方が違ってきます。
いろんなボディビルダーと話をしますが、「どの筋肉を鍛えるには、どのトレーニング種目が良いか?」という話題になると、みんなバラバラの答えが返ってきます。
トレーニング教本には最大公約数になる答えしか載っていないのは、部位ごとに鍛え分ける方法をあまり細かく書くと、必ずしもピッタリ当てはまらない人がたくさん出てしまうという問題があるからです。
つまり、細かなところまで押さえて理想の身体に仕上げていくには、筋電図を使った研究結果というようなデータ以上の目を持って、自分の身体に合った種目選びや身体の使い方を工夫していくことが必要になります。

解剖学の知識を身につける

自分に合ったトレーニングを考えるのに、実際に自分の身体で筋電図を使って調べることができれば良いですが、現実的ではありません。
まず一人でもできる最初の一歩として、解剖学の勉強をしてみると良いと思います。最近は人間の身体の筋肉を画で見ることができる図鑑のような本がいろいろあります。各部の細かい名前まで覚えなくていいので、まずは目で見るのが取っ付きやすいと思います。

筋肉は収縮することでその筋肉の両端の距離が縮まって動いています。実際のトレーニングでうまく効かせられるようになるには経験が必要ですが、理屈として難しいことではありません。
自分の鍛えようとしている筋肉がどこからどこへつながっているのかを知ることで、その筋肉を収縮させるにはどんな動きをすれば良いかイメージができるようになってくると思います。そして、いろんな動きを試してみて、伸びている感覚、収縮している感覚、疲労している感覚を自分で感じ取って、自分の身体に最も効果的な動きを追求していくということになります。

トレーナーについてもらうと、動きの指導を受けることはできますが、こういう感覚を共有することはできません。実際に鍛えたい筋肉が使えているかは自分にしか分からないのです。
毎回インクラインベンチプレスばかりやり続けるのは、マンネリ化してイヤになってしまう人も多いでしょう。毎回のトレーニングで5分でも時間を取って、新しい動きを試してみる、そして効き方が変わるか感じてみるというのが、鍛え分けるトレーニングの入り口であり、トップレベルのボディビルダーまで変わらず重要なことになります。それを楽しいと思えるようになればトレーニングは一生やめられなくなります。

トップビルダーの効かせるワザ

国内トップレベルのボディビルダーのトレーニングを見ると、とても独特なテクニックを使っています。
ある選手は、 肩を鍛えるサイドレイズという種目を、パワー種目であるクリーンのように行います。通常あまり大きな重量を使えない種目ですが、反動を使って高重量のダンベルを振り上げて、ダンベルが挙がりきったあたりから三角筋を使ってさらに挙げていくような意識で身体を動かしています。一緒にトレーニングをする機会があったときに試してみましたが、私はうまく効かせることができませんでした。
他には、やはり反動を使って、100kgくらいの重量でバーベルカールをするトップ選手もいます。
ここで注意が必要なのは、トップレベルのボディビルダーたちも、こういう独自のトレーニングの前に、BIG3など基本的な内容のトレーニングで身体の基礎づくりをした時期があることを忘れてはいけません。

ボディビルとデッドリフト

デッドリフトは、パワーリフティングやウェイトリフティングには必要不可欠な種目ですが、ボディビルの世界では、スクワットとベンチプレスに比べて存在感が小さくなるところがあります。実際、デッドリフトをまったく行わないボディビルダーもいます。
デッドリフトでは脊柱起立筋が鍛えられますが、僧帽筋や広背筋に隠れている部分が大きいので、身体の見た目を変えるという意味では、直接的に評価されにくいということがあります。
ただ、ここまでに話したようにデッドリフトは全身の筋力を上げるには重要な種目で、デッドリフトが強くなることでスクワット、オーバーヘッドプレス、ベントオーバーロウといった他の種目にも良い影響があります。
また、あれだけの高重量で身体に大きなストレスを掛けるというのは、身体的な効果だけでなく、キツいトレーニングをやり抜く精神的な強さを付けるという意味でもとても重要だと思います。
ベースになる筋力・筋肉量が十分にできた上で、ボディビルのためのトレーニングに特化する場合には個人の選択になりますが、そこに至るまでの基礎づくりにはできるだけ取り入れるべきだと思います。

趣味トレーニーにはもろ刃の剣

トレーニング初心者の方たちは、上に書いたようなことを気にする必要はありません。
バーベルのBIG3にベントオーバーロウや懸垂といった基本種目で筋力を上げていくことが最優先です。そうすることで他の種目を行ったときにフォームが安定しやすくなり、より大きな重量を扱えるようになります。
トレーニングを始めて間もない内は、安定して同じ動きを繰り返すことが難しいので、毎回狙った部位に負荷を掛けることができません。そういう状態で感覚を研ぎ澄ますことに集中してもなかなか前進できません。

コンテストに出場するボディビルダーのトレーニングは、鍛えないといけない筋線維があまりに多岐にわたるので、細かく鍛え分けるために時間が掛かります。ベースになる筋肉量ができた上で、バランスを整えるための仕上げのトレーニングなので、時間を掛けただけ大きな効果が出ているのかというと微妙なところもあります。こういう細かい部分を追求するのはトレーニング経験の長い上級者やコンテストビルダーなど一部の人間で良いんだと思います。
一般のトレーニング愛好家の方は、まず時間効率を優先して考えるべきでしょう。少しでも生活に支障の出ないトレーニングの仕方を考えることで長く続けやすくなり、長く続けられればより高い目標に到達しやすくなるはずです。

文責:八百

岡田 隆

岡田 隆

日本体育大学体育学部准教授。理学療法士。
大学准教授としてトレーナーを育成する傍ら、日本オリンピック委員会強化スタッフとして、柔道日本代表チームのトレーニング指導を行う。自ら現役ボディビルダーとしても活動しており、2014年東京オープンボディビル選手権70kg級、2016年日本社会人ボディビル選手権で優勝。
ボディビルに対するマイナスイメージを解消し、ボディビルのノウハウが一般人・アスリートを問わず広く役立てられるよう幅広い活動を行っている。
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