睡眠不足でダイエットは失敗する

投稿者 : Greg Nuckols

睡眠不足は肥満改善のための食事管理の効果に悪影響を及ぼす(英語リンク)

今回の記事で言いたいことは、この論文のタイトルがすべて語っています。

睡眠について話をすると、どうしても説教くさくなってしまいがちです。
「新しいトレーニング方法やダイエット方法が見つかった」なんて話題ほど刺激的な内容にならないので、十分にスポットライトが当らないテーマですが、十分な睡眠をとるのは絶対に欠かせないことです。
記事を何回かに分けてシリーズ化するかもしれませんが、まずは数字を使って捉えどころのある話から入りたいと思います。

体脂肪を落としたり筋肉を増やしたりして体形を良くするのに睡眠がどう関係するのかを考えたいと思います。
睡眠不足が健康に与える影響は別にして、ここがこのサイトの読者さんの最も興味のあるところでしょう。

今回紹介する実験は、睡眠時間がダイエットの効果に影響するかを調べるために行われました。それまでの研究では、睡眠不足が原因でホルモンバランスが乱れたり、食欲が増えたりすることが示されていました。今回は、それが実際に体形の変化につながるかを調べるため、低カロリー食を使った実験が行われました。

被験者

被験者は30代後半〜40代前半で、平均BMI27.4と太り気味である以外は健康な10人が集められました。
飲酒の多い人、タバコを吸う人、睡眠サイクルの乱れた人、カフェインを常用している人、身体検査で目立った異常の確認された人は実験から外されました。
要は、ごくごく普通の中年の一般人が集められたということです。

実験の内容

被験者は14日間、毎晩8.5時間、もしくは5.5時間ふとんに入るように指示されました。その後少なくとも3ヶ月の期間をおいて、睡眠時間を入れ替えて14日間生活をしました。
食事量は安静時代謝量の90%とされ、エネルギー消費量の測定には二重標識水法が使われました。(話が逸れてしまうので細かい説明は省きますが、二重標識水法は正確にエネルギー消費量を測定するのに非常に有効な方法です。)
食事は統一され、カロリー摂取量をできるだけ正確に把握するために重さが量られました。非常によく管理された対照実験だと言えます。

結果

被験者の睡眠時間は、想定通りに変化しました。ふとんに8.5時間いた人たちは平均で7時間25分眠り(実験前の通常の生活での平均7.7時間に近い数値です)、5.5時間ふとんにいた人たちは平均5時間14分睡眠をとりました。

1日のカロリー摂取量はほぼ同じに近く、約1450kcalでした。カロリー消費量もほぼ同じで1日約2140kcalでした。つまり1日のカロリー収支がマイナス700kcalのダイエットということになります。一般的な感覚で見ても悪くない設定ですね。

三大栄養素は、炭水化物が48%、脂肪34%、たんぱく質18%という配分でした。

実験期間中、両方のグループで体重が約3kg落ちました。ただ、8.5時間のグループでは脂肪と除脂肪量がおよそ50/50の比率で落ちたのに対して、5.5時間のグループでは脂肪と除脂肪量が20/80という落ち方になったのです。誤植ではありません。落ちた体重の内、ほんの1/5だけが脂肪だったということです。3.0kgの内0.6kgということです。
さらに細かい数字を挙げると、8.5時間のグループは、脂肪を2.33倍落とせたのに対して、5.5時間のグループは1.6倍除脂肪量が落ちたと
いうことです。これでは体形改善なのか、改悪なのか分からなくなりそうです。

睡眠 ダイエット 減量

睡眠不足の被験者に関しては、他にも良いところがありません。
8.5時間のグループと比較して空腹感が強く、アシルグレリンという食欲増進作用のあるホルモンの分泌が高まったこともあわせて確認されました。
呼吸商も高い値を示しました。これは、エネルギー源に占める炭水化物の割合が高く、脂肪の割合が低かったということを意味しています。

この実験の欠点

今回の実験では、被験者は運動をせずに屋内で過ごしました。レジスタンストレーニングを行うと減量中に筋肉を落ちにくくする効果があるので、今回の結果をすべての人に当てはめにくくなります。
さらにこのサイトの読者さんの目には、たんぱく質の摂取量(1日約65g)が笑えるほど低く映ると思います。

また注意が必要なのは、除脂肪量には水も含まれるということです。それを考え合わせると、体重が3kg落ちた内、体組織が落ちた分は1.2〜1.7くらいと考えるのが妥当でしょう。脂肪は1lbsあたり約3500kcal、筋肉は約2500kcalのエネルギーがあるとされています。実験期間中のカロリー収支のマイナス幅が9660kcalとすると、3kg(6.6lbs)の内のいくらかはほぼ間違いなく水が含まれていたと言えます。

これを踏まえて少し計算をしてみましょう。
両方のグループともに水と体組織の減った割合が50/50だったとしましょう。十分にあり得る数字です。
この場合、8.5時間のグループは脂肪が1.4kg落ちたので、脂肪以外の体組織の落ち幅は0.1kgだけということになります。脂肪93%に対して除脂肪組織7%、実にいい数字です。
5.5時間のグループは脂肪が0.6kg落ちたので、脂肪以外の体組織の落ち幅は0.9kgになります。脂肪40%に対して、除脂肪組織60%という数字です。さっきの20/80よりはマシですが、まだまだ良いとは言えません。

睡眠 ダイエット 減量 体内水分量

これでもおおまかな推定値でしかありませんが、両グループで実際に何がどの程度落ちたのか、現実に近いイメージを持てると思います。
1日1450kcalと制限されたカロリー摂取量、低たんぱく質、運動なしという条件下にもかかわらず、8.5時間のグループではおそらく落ちたのはほとんど脂肪で、脂肪以外の体組織はとてもよく維持できたと考えていいでしょう。
5.5時間のグループでは、どういう見方をしてもかなりの除脂肪組織が失われたことが分かります。ちなみに除脂肪組織には、筋肉・骨・内臓などが含まれます。

ちょっと細かい話になりますが、睡眠不足がコルチゾルに与える影響、コルチゾルが体内水分量に与える影響を考えると、5.5時間のグループで身体の水分が多くなっていた可能性も考えられます。その場合には、筋肉が落ちた量はさらに増える計算になります。まぁ、今日のところはそこまで意地悪に考えなくてもいいでしょう。

実際の生活に当てはめると

このサイトの読者さんには、ウェイトトレーニングをしていて、もっとたんぱく質を摂っている人が多くいると思います。この実験結果が自分の生活にどれだけ当てはまるのかと考えている人もいるでしょう。

もちろん、同じように睡眠不足でもトレーニングをしてたんぱく質をしっかり摂れば、今回の実験の5.5時間のグループよりは良い結果が出るでしょう。ただ、それは「どの程度ダメージを小さくできるか」という話です。もしかしたら、40/60のところが60/40くらいになるかもしれません。まだまだ素晴らしい結果ではありません。

ヒトの身体のメカニズムを考えると、睡眠不足が原因で除脂肪組織が失われるのを、食事に気をつけて運動をすることで完全に止めることができるとは思えません。
睡眠不足でホルモンバランスが変わることは十分に裏付けられています。呼吸商が高くなるということは、全体のエネルギー消費量に占める脂肪の割合が小さくなっているということで、その分のエネルギーは炭水化物かたんぱく質からまかなわれるしかありません。
さらに、アシルグレリンの分泌が高まることでの悪影響もあります。今回の論文では次のように説明しています。「アシルグレリンはエネルギー消費量を抑え、空腹感を高め、脂肪の保持を促し、肝臓での糖新生を増やして、グルコースが必要な組織にエネルギーを届けるように働きます。」

呼吸商が高くなった際に、一番うまく進んだ場合のシナリオは、たんぱく質を十分に摂ってトレーニングを行うことで筋肉を落とさずに済むということです。
しかし、必要なエネルギー全体に対して、体内のグリコーゲンが使われる割合が高く、体脂肪が使われる割合が低くなります。体脂肪が使われにくいということは減量期間を長く取らなければいけないということで、グリコーゲンが使われる割合が高くなるということは、トレーニング時に十分なエネルギーが得にくくなるということです。そして、アシルグレリンの分泌が高まると空腹感が強くなります。
つまり、すべてを100%正しく行っても睡眠時間が不足していれば、減量期間が長くなり、トレーニングでいまいち力が出ず、必要以上に空腹感を感じるというシナリオが待っているということです。なんとも嬉しい話ですね。

対策は?

寝ましょう。
もうそれに尽きます。身体の回復に睡眠が重要だということや、睡眠不足から来る健康上の問題や、頭がボーっとする感じをすべて無視したとしても、身体づくりに睡眠は欠かせないという動かぬ証拠があるのです。睡眠が不足すると脂肪が落としにくくなり、代わりに除脂肪組織が落ちてしまうリスクが上がります。
自分の生活の中でトレーニングや栄養管理を優先するのに価値を感じるなら、睡眠も優先するようにしましょう。しっかり睡眠がとれれば、トレーニングと栄養管理の効果も上がりますし、睡眠が取れなければ理想の身体は遠ざかってしまいます。

オリジナル記事(英語)

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Greg Nuckols

グレッグ・ナコルズはアメリカのストレングスコーチです。
世界トップクラスのパワーリフターでもあり、スクワット342.5kg、ベンチプレス215.5kg、 デッドリフト329kgの自己ベストを誇ります。
現在はPhD取得に向けて活動しており、科学的知識と最前線で戦うアスリートとしての経験の融合を自身のテーマとしています。

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コメント

  1. はじめまして。たかと申します。私は夜勤のある仕事をしており夜勤中は12時間~15時間ほど起きています。この場合普通の方よりダイエットや肉体改造することは難しいのでしょうか?ただ単に睡眠時間を多く確保できればいいというのであれば夜勤を始める前に8時間以上眠れている、夜勤が終わってから8時間以上睡眠を確保できれば問題ないのでしょうか?あと私は夜勤終わりにジムに行くのですがこれも問題ないのでしょうか?

    1. 八百 健吾

      たかさん、初めまして。コメントありがとうございます。

      とてもマジメなことを言うと、毎日一定の生活リズムを保って、睡眠時間も十分に取れるのがベストなんだと思います。
      ただ、実際にそうもいかない場合には、「できるだけそれに近付ける」ということになると思います。
      夜勤のあとにジムに行くのも、仕事の疲れの影響なんかがあって、ベストではないかもしれないですが、そのタイミングが避けられない場合には、トレーニングが続けられないよりは良いですよね。

      100点の生活ができない場合、例えば「80点だからダメ」という風に捉えるのではなく、「80点を85点にするにはどうすれば良いか?」と考えると答えを出しやすくなるかなと思います。

  2. 初めまして。
    子どもたちに『早起き・早寝』の指導をしている者です。
    『ダイエットしなきゃ』と言っている思春期の女子たちへの指導に
    このお話をしてみたいと思います。

    これからも、記事を楽しみにしています。

    1. 八百 健吾

      初めまして、コメントありがとうございます。

      思春期の女の子に本当に必要な情報なのか分かりませんが、何かの役に立てば幸いです。

  3. はじめまして。S&Cコーチやパーソナルトレーナーとして活動しております、岸と申します。

    現在サポートしているチームの選手に「睡眠」についての指導を行ったこともあり、タイムリーだったのでFBにてシェアさせていただきました。
    やはり体を作る上で、睡眠はトレーニングそのものと同列に扱うべき大切な要素ですね。

    記事にある実験結果は、睡眠を削ることの怖さが非常にわかりやすく伝わりますね。機会あれば選手にも紹介したいと思います。

    1. 八百 健吾

      岸さん、初めまして。コメントとシェアありがとうございます。
      睡眠を削ることの怖さという話では、少し前に河森コーチが睡眠時間とケガに関して記事を書かれていました。
      選手の方にあわせて見てもらうと説得力があるかもしれません。

      1. はい、こちらも拝見させていただきました。

        ここのところあまり睡眠をとれておらず、でもトレーニング内容は変わっていない状況が続き、あまり調子が良くない気がします。睡眠は一番簡単かつ最強の回復方法だと、自身の身体で実感している日々です(^^;;

        とにかく、寝る!選手にも自分にも言い聞かせます。

        1. 「とにかく、寝る!」
          7:42pm – ちょっと早いんじゃないですか?(笑)

          1. この時間に寝れたら最高‼︎笑
            スクワットも上がりそうだなー(^^

            まずは24時前の就寝を心がけるようにしてみます。

  4. シナモンロール

    睡眠時間を削り、トレーニングを優先しがちなので
    とても勉強になりました。ありがとうございます。

    睡眠について質問なのですが、連続して8時間眠れない場合は
    昼寝などで補ってもよいのでしょうか?

    Greg Nuckolsさん、アンディさん、八百さんのトレーニーとしての
    睡眠に関する経験なども教えていただけたら、嬉しいです
    。よろしくお願いします。

    1. 八百 健吾

      シナモンロールさん、こんにちは!

      >睡眠時間を削り、トレーニングを優先しがち
      バランスの問題なので、どうするのが良いかはケースバイケースですが、睡眠が意識から抜けがちな人ほどトレーニングを我慢して寝るくらいの気持ちでも良いのかもしれません。

      >連続して8時間眠れない場合は昼寝
      すいません。ウチは睡眠の専門家ではないのでそこまでは分かりません。

      グレッグは目覚ましを使わずに起きられるのが理想と言っています。これはグレッグに限らずいろんな人が使う目安で、ボクもできるだけそうするようにしています。
      個人的には、トレーニングやストレスのあった翌日は明らかに睡眠時間が長くなります。

  5. よく肉体改造をする上で大切とされている三本柱「トレーニング」「栄養」「睡眠」の今回は睡眠ですね。重要だけど以外と三本柱の内の一番見落とされがちな項目のような気がします。
     
    日本のトップボディビルダーの方たちを見ても意外とショートスリーパーの方が多くて自分自身もほかの項目に比べて睡眠はそんなに重要ではないのでは?と思って無理やり睡眠時間を4~5時間にしてた時期がありました。ただ自分にはまったく合わず今では6~7時間は寝るようにしています。やっぱりただ真似をするだけではなくその人に合ったやり方をしていく方が結果的にはいいみたいですね。

    p.s.最近、睡眠中に口呼吸になってしまい起きると必ず口の中がひどく乾燥しているのが悩みです(笑)

    1. 八百 健吾

      >よく肉体改造をする上で大切とされている三本柱
      よく言われるのは「トレーニング・栄養・休息」という言い回しですね。ここでの「休息」はトレーニング間隔を何日あけるかという意味合いで語られることが多いと思います。
      とかく睡眠時間を犠牲にして他のことをしがちなので、ちょっと寝すぎるくらいの気持ちでいるのがいいのかもしれません。

      修学旅行ならお茶を流し込まれる寝方ですね(笑)

      1. 休息と書いたつもりが今回の記事が睡眠についてだっただけに睡眠になってましたね(笑)失礼致しました。

        一度目覚めたときに睡眠時間が意外と少ないなって思って二度寝して起きるととんでもない時間に起きることが多々あって中々思い通りに睡眠を取るのが難しいです^^;

        そんな今日の睡眠時間は11時間でした(笑)

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アンディ・モーガン

イギリス出身のダイエットコーチ兼パーソナルトレーナーです。日本に住んで11年。日本が大好きになりました。 欧米のダイエット情報と数百人の英語圏のクライアント指導で得た経験を日本に広めるためノウハウを公開しています。
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科学的根拠に基づく指導をモットーとしてカナダで活動中のパーソナルトレーナー&指圧セラピストです。皆様のフィットネスライフに役立つ情報を厳選して発信していきます!